宇宙論原理に反する超巨大構造物
2024.01.28
ロペス氏によれば、現在の宇宙論では、ジャイアントアークやビッグリングほど大きな構造は説明されていないという。 彼女は、観測可能な宇宙全体で 1 つの大きな構造物が予想されるかもしれないが、2 つあることは「非常に魅力的」であると述べています。

ジャイアント・アークとは、2021年6月に発見された宇宙の超大規模構造の一つです。この構造は、銀河や銀河団、ガスや塵などからなり、直径は約33億光年にも及びます1。この大きさは、宇宙がどこでも同じように見えるという宇宙論原理に反すると考えられています。ジャイアント・アークは、観測可能な宇宙の半径の15分の1に相当する範囲に広がっており、もし夜空に見えたら、満月の20倍の大きさになると言われています3。

ジャイアント・アークは、スローン・デジタル・スカイ・サーベイ(SDSS)のデータを用いて、イギリスの中央ランカシャー大学の博士課程の学生であるアレクシア・M・ロペス氏らのチームによって発見されました。ロペス氏は、ジャイアント・アークと同じ距離にある別の超大規模構造であるビッグリングとの関係性についても研究しています。ジャイアント・アークの存在は、宇宙の起源や進化に関する理論に新たな挑戦をもたらすと考えられています。


直径13億光年の巨大なリング構造を発見…現行モデルが予測する限界を超えた大きさ

天文学者たちは宇宙空間に巨大なリング状の構造を発見し、「ビッグリング」と名付けた。

この発見は、宇宙に対する我々の理解を覆すものだ。

発見したアレクシア・ ロペスは、この大発見をした後、「現実離れした出来事」のように感じたと話している。

博士課程学生アレクシア・ロペス

宇宙について我々の理解を揺るがすような巨大なリング状の構造を、天文学者たちが発見した。

「ビッグリング(Big Ring)」と名付けられたこの宇宙の巨大構造は、直径が約13億光年で、これまでに観測された中で最大級の構造物だ。地球から見ると、夜空に浮かぶ満月15個分の大きさに見える。

ビッグリングは、「宇宙原理」に挑戦するほど大きなものだ。この宇宙論の基本的な仮定は、宇宙は大きなスケールで見れば均質であり、どの方向から見ても同じように見えるというものだ。

地球から90億光年以上離れた場所で観測されたビッグリングは、この宇宙原理に反する最新の巨大構造物だ。

「現在の宇宙理論では、このようなスケールの構造はあり得ないと考えていた」と、ビッグリングを特定したセントラル・ランカシャー大学(University of Central Lancashire)の博士課程の学生、アレクシア・ロペス(Alexia Lopez)は、イギリスの新聞ガーディアン(The Guardian)に語っている。

「観測可能なすべての宇宙の中で、おそらくひとつだけ、非常に大きな構造が存在していると考えられる」

ロペスは2021年にも、33億光年の宇宙にまたがる構造物である「ジャイアント・アーク(Giant Arc)」を発見している。ジャイアント・アークはビッグリングの近くに見える「うしかい座」の近くに位置している。

「これらの奇妙なことは、これまで隠蔽され続けているが、発見が増えれば増えるほど、我々の標準モデルを再考しなければならないという事実に直面することになるだろう」と彼女は話す。

「少なくとも不完全であり、ともすれば、まったく新しい宇宙の定理が必要だ」

BBCによると、ロペスは知らず知らずのうちにビッグリングを発見しており、それは「本当に現実離れした」出来事だったと語っている。

遠い宇宙で宇宙を覆す第二の巨大構造物が発見されたことにより、天文学者たちは宇宙論に関する基本的な仮定のいくつかを再考させられている。 ビッグ リングは、博士課程の学生アレクシア ロペスによって発見されたこれらの超大型構造物の 2 番目です。

ビッグリングは地球から92億光年離れたところにあり、周囲は約40億光年です。 地球上にいて夜空を眺めると、約 15 個の満月が含まれることになります。 ロペスはまた、2年前にジャイアントアークと呼ばれる最初の超大型構造を発見した。この構造は直径33億光年で、ビッグリングと同じ距離、同じ宇宙時間に見られ、その差はわずか12度である。空の上で。

セントラル・ランカシャー大学の博士課程学生であるロペス氏は、「これら 2 つの超巨大構造はどちらも、現在の宇宙の理解では説明するのが簡単ではありません。」と説明しました。 さらに彼女は、「そして、その超巨大なサイズ、特徴的な形状、そして宇宙論的な近さは、確かに何か重要なことを私たちに伝えているに違いありません。しかし、正確には何を教えてくれるでしょうか?」と付け加えた。

ロペス氏が示唆する可能性の 1 つは、ビッグ リングがバリオン音響振動 (BAO) に関連している可能性があるということです。 ロペス氏は、これらは初期宇宙の振動から生じ、今日では銀河の配置の中で球殻として現れるはずだと説明する。 しかし、問題は、ビッグリングの詳細な分析により、それがBAOの提案と互換性がないことが示されていることです。 ロペス氏によると、それは単純に大きすぎて球形ではないという。

ロペスが提示した他の可能性の 1 つは、通過する宇宙ひもの影響によって引き起こされる可能性があるということです。 ノーベル賞受賞者のジム・ピーブルズは最近、これらの宇宙ひもが他の「銀河の大規模分布における特異性」の起源に役割を果たしている可能性があると仮説を立てた。 もう一つの可能​​性は、同じくノーベル賞受賞者であるロジャー・ペンローズ卿によるもので、宇宙のリングが CCC の信号である可能性があるため、共形周期宇宙論 (CCC) として知られています。

「宇宙原理では、私たちが見ることのできる宇宙の一部は、宇宙の残りの部分がどのようなものであると私たちが期待しているかの『公正なサンプル』として見なされると仮定しています」とロペス氏は説明します。 「宇宙を大きなスケールで見ると、物質は宇宙のどこにでも均等に分布していると予想されるため、一定のサイズを超えると目立った不規則性は存在しないはずです。」

ロペス氏によれば、現在の宇宙論では、ジャイアントアークやビッグリングほど大きな構造は説明されていないという。 彼女は、観測可能な宇宙全体で 1 つの大きな構造物が予想されるかもしれないが、2 つあることは「非常に魅力的」であると述べています。

※現在の宇宙論とは

現在の宇宙論は、宇宙の起源、構造、進化、運命などに関する科学的な理論です。現在の宇宙論の基礎は、ビッグバン理論と呼ばれる宇宙が約138億年前に高温高圧の状態から始まり、その後急激に膨張したという考え方です1。

ビッグバン理論は、宇宙マイクロ波背景放射やビッグバン元素合成などの観測的な証拠によって支持されています。しかし、ビッグバン理論だけでは、宇宙の初期の非一様性や物質と反物質の非対称性などの問題を説明できません。そこで、宇宙初期に指数関数的な膨張が起こったとするインフレーション理論や、宇宙に存在する正体不明のダークマターやダークエナジーという概念が導入されています2。

また、現在の宇宙論は、宇宙に存在する最も大きな天体(銀河、銀河団、超銀河団)や最も初期に形成された独特の天体(クエーサー)の形成と進化についても研究しています。宇宙の大規模構造は、階層的構造形成モデルと呼ばれる、より小さな天体が衝突・合体を繰り返すことで大質量の構造が形成されたとするモデルによって説明されています3。

現在の宇宙論は、物理学や天文学のさまざまな分野と関連しており、高エネルギー物理学の理論や実験、宇宙の観測やシミュレーションなどの手法を用いて、宇宙の謎に挑んでいます。現在の宇宙論の最前線には、超弦理論やブレイン宇宙論などの新しい物理学の理論や、我々の宇宙以外に無数の宇宙が存在するとするマルチバース理論などの斬新なアイデアがあります。

■現在の理論では説明できない「何か」が宇宙の成長を抑制している

何かが間違っているようです。

米国のミシガン大学(UM)で行われた研究によって、既存の宇宙論やアインシュタインの一般相対性理論が扱う重力の理解では宇宙の大規模構造の変化を説明できないことが示されました。

現在の宇宙論では、宇宙を膨張させる暗黒エネルギーと宇宙を収縮させる重力の作用が働いており、暗黒エネルギーの方が勝っているため、宇宙は成長(加速膨張)を続けているとされています。

そして銀河が連なる宇宙の網「大規模構造」の形状もこの理論に従って形を変化させていると考えられています。

しかし研究者たちが観測結果を分析したところ、大規模構造の変化速度は時間経過とともに減速しており、誤差では説明できないレベルに達していることが示されました。

物理学の歴史では、理論と観測結果が大きく乖離する場合、しばしば理論のほうが間違っており、観測結果を説明できる新理論誕生のきっかけになります。

では現行の宇宙論とその根拠となっているアインシュタインの一般相対性理論(重力理論)は、修正されることになってしまうのでしょうか?

■宇宙の大規模構造の変化は既存の理論では理解できない

全てがビッグバンによって誕生してから137億8700万年。

宇宙は光の速度を超える速さで膨張を続け、その直径とも言える「観測可能」な宇宙の広さは137億年よりも遥かに大きい、930億光年(28ギガパーセク)に及ぶと考えられています。

そしてこの広大な宇宙には、無数の銀河が網状に分布する「大規模構造」が構成されています。

ただこの大規模構造も不変の存在ではなく、時間が経過するにつれて銀河たちはお互いの重力で接近し合い、網の太さが圧縮され高密度化する一方で、網の目の部分からはますます物質が少なくなっていくと考えられています。

私たちの天の川銀河も隣にあるアンドロメダ銀河と重力で互いに引き合っており、40億年後には大規模な衝突を起こすとされています。

しかし引き付け合う重力がある一方で、宇宙全体の膨張速度は暗黒エネルギーによって加速し続けてていることが知られています。

そのため大規模構造の形状変化を予測するときは、重力による高密度化と暗黒エネルギーによる宇宙膨張の2つを考慮し計算を行うことになっていました。

大規模構造の時系列的な変化は既存の宇宙論を使って予測できないようです。

ただ近年になり、暗黒エネルギーと関連した、宇宙の膨張率を示すハップル定数が、観測ごとに大きく異なる値を記録することが明らかになってきました。

たとえば定期的に増光する星を基準に測定した場合と、宇宙マイクロ背景放射を基準に測定した場合には、10%ほども値に差が出てしまっていたのです。

日常世界では10%というと誤差のように思えます。

しかし測定が行われるたびに不一致が発生しており、もはやささいなエラーとして無視することはできません。

このような不一致は、宇宙論そのもの、特に暗黒エネルギーの理解について致命的な間違いが潜んでいると考えられています。

そこで今回、ミシガン大学の研究者たちは、マイクロ波背景放射や重力レンズ効果など異なる時期に異なる対称を観測した複数の探査機のデータを分析し、過去から現在にかけて宇宙の大規模構造がどのように変化してきたかを調べることにしました。

既存の宇宙論に問題があるならば、宇宙論をもとに予測される大規模構造の変化についても、理論値と観測結果の間に大きなズレが生じる可能性があったからです。

すると予想通り、宇宙の大規模構造の形状変化が、理論で予測されているよりもかなり遅いことが示されました。

そして変化の遅延は過去から現在に近づくほど大きくなっていることも判明。

また研究者たちは自らの測定値の確かさを評価したところ、標準的な宇宙理論が正しい場合に、今回のようなデータパターンが現れるのは4600分の1(3.7σ)であることがわかりました。

つまり観測結果が正しい場合、既存の宇宙論が正しい確率は4600分の1でしかないのです。

この結果は、現在の重力と暗黒エネルギーをもとにした既存の宇宙論では、実際に宇宙に起きている変化を説明できない可能性を示しています。

アインシュタインの相対性理論も間違っている可能性がある?

アインシュタインの一般相対性理論は大規模構造の変化を説明できません。

しかし研究者たちはデータの分析を続ける中で、より衝撃的な発見をしました。

分析結果は、このズレを引き起こしている原因が、大規模構造の変化において重力の果たす役割が思っていたほど強くなく、暗黒エネルギーの影響のほうが高いためであることを示していたからです。

また暗黒エネルギーそのものに、大規模構造の変化を抑制する効果がある可能性がみつかりました。

宇宙空間にある物体は全て重力の影響を受けており、惑星や銀河が回転する仕組みはアインシュタインの一般相対性理論に従って重力で説明することが可能だと考えられています。

そのため宇宙論ではアインシュタインの一般相対性理論(重力理論)をベースに、暗黒エネルギーによる宇宙膨張の影響を加味するという方法がとられています。

(※暗黒エネルギー自体がアインシュタインの理論の副産物とも言えます)

しかし大規模構造の変化においては重力の影響は限定的であり、暗黒エネルギーによる膨張と、暗黒エネルギーによる構造変化抑制が主な役割を担っていたのです。

そうなると問題はより深刻になります。

研究結果が正しいならば、この結果は、大規模構造レベルになると宇宙論だけでなく、その基礎となるアインシュタインの一般相対性理論(重力理論)も上手く機能しなくなっていることを示しています。

アインシュタインの一般相対性理論はニュートン物理学の上位互換であり、物理学の基礎として、私たちが世界を認識するための基本的な手段となっています。

もしこの理論が通用しない場面が存在するとしたら、私たちは現実の構造を理解するために、代わりの物理法則を1から設計しなおさなければならないでしょう。

研究者たちは宇宙の大規模構造がどのように変化してきたかを正確に説明する理論ができれば、重力と暗黒エネルギーの知られていない性質を解き明かすヒントになると述べています。

■ニュートンとアインシュタインの重力理論が崩壊している連星を発見! / Credit:NASA

どんなに優れた理論も限界があるようです。

韓国の世宗大学(SJU)で行われた研究によって、遠距離で回転している連星のように重力が弱い領域では、標準的な重力理論が崩壊していることが実証されました。

ニュートンの運動法則やアインシュタインの一般相対性理論によれば、重力の影響が弱い世界でも強い世界でも同じ方程式に従うとされています。

しかし新たな観測では、2000au(天文単位)以上離れている連星など、互いに与える重力が極めて弱い場合には、標準的な重力理論で予想されるよりも重力加速度が強くなっていることが示されました。

量子の世界では日常的な世界の物理法則が通じなくなることが知られていますが、重力でも同じように小さな数値では法則が異なってくるのでしょうか?

既存の重力理論は暗黒物質に頼っている

これまでニュートンの運動法則とアインシュタインの一般相対性理論は、私たちが宇宙を理解するにあたり、大きな役割を果たしてきました。

特に「重力の強い場所では時間がゆっくり進む」ことや「光も重力によって曲げられる(時空が歪む)」ことを示した一般相対性理論は非常に強固であり、GPSや重力レンズなど多くの応用技術の根底となっています。

しかし他の多くの法則と同じように、ニュートンやアインシュタインの法則も万能ではありませんでした。

ニュートンとアインシュタインの重力理論が崩壊している連星を発見!

たとえば銀河を回る星々の動きの場合、ニュートンやアインシュタインの法則に従えば上の図の点線ように、中心から距離が離れるにつれて回転速度はゆっくりになるはずです。

しかし実際の観測結果は赤い線が示すように、外縁部であっても内縁部と同じような回転速度をしていることが示されました。

よく言われる暗黒物質は、このような予測値と実測値の違いを説明するための存在として認識されています。

暗黒物質が存在すると仮定すると、このような値のズレも説明でき、ニュートンとアインシュタインの重力理論は守られ、一安心というわけです。

ニュートンとアインシュタインの重力理論が崩壊している連星を発見!

ただ値のズレを説明するには、通常の物質の6倍近くの暗黒物質が存在する必要があり、宇宙のほとんどは暗黒物質と暗黒エネルギーに満たされていることになってしまいます。

暗黒物質は通常の物質とは異なり、光と相互作用せずに重力の影響のみを受けるとする極端な性質を持つとされます。

ただ先に述べたように、暗黒物質の性質は測定によって確かめられたものではなく、ニュートンとアインシュタインの法則を守るという目的のもとに、想定されているに過ぎません。

またこれまで暗黒物質を検出しようとするあらゆる試みがなされてきましたが、全て失敗に終わっています。

そのため近年では、暗黒物質に頼らず、物理法則を観測結果に合わせて微調整しようとする「修正ニュートン力学(MOND)」などが盛んに研究されるようになってきました。

(※修正ニュートン力学でも観測できない物質による影響があるとされていますが、その量は2倍ほどと少なくなっています。またその物質もいわゆる暗黒物質ではなく、あくまで未発見の通常物質であると考えられています)

しかしどちらの理論が正しいかを判別するには、暗黒物質の影響が少ない天体などの運行パターンを調べなければなりません。

ニュートンとアインシュタインの重力理論が崩壊している連星を発見!

そこで今回研究者たちは「対決の舞台」として連星系を選びました。

これまでの研究では太陽のように恒星が1つだけの星系は少数派であり、多くの星系は複数の恒星が互いの周りを回っている連星であることが示されています。

実際、太陽から最も近いプロキシマ・ケンタウリは3重連星を構成していることが知られています。

ですが連星が選ばれたのは沢山あるからではありません。

銀河規模では考慮すべき暗黒物質が膨大な量となるため、星々の動きに大きな影響を与えていると考えられています。

しかし連星レベルでは密度の問題から、暗黒物質の影響をほとんど考慮する必要がありません。

(※実際、地球と太陽、あるいはプロキシマ・ケンタウリが含まれる3重連星などでは暗黒物質を考慮せずに運航を予測できます)

そしてニュートンの運動法則やアインシュタインの一般相対性理論によれば、重力の影響が弱い連星でも強い連星でも同じ方程式に従うとされています。

一方で修正ニュートン力学では、離れた連星のように重力が非常に弱い場合には、既存の重力理論の予測より重力加速度が大きくなると予想されていました。

つまり離れた連星の重力加速度を測定できれば、修正ニュートン力学と既存の重力理論(暗黒物質の助けなし)のどちらが正しいかを、文字通り、白黒つけられるわけです。

低い重力加速度では既存の重力理論が成り立たない

離れた連星のように重力が弱いときでも既存の重力理論が当てはまるのか、それとも修正ニュートン力学(MOND)のほうが正しいのか?

答えを得るため、研究者は欧州宇宙機関の Gaia 宇宙天文台から採取された2万6500ペアの連星の挙動を調査し、互いに及ぼしている重力加速度を算出しました。

2000auから5000auを境に標準的な重力理論は成り立たなくなっていきます / Credit:Kyu-Hyun Chae . Robust Evidence for the Breakdown of Standard Gravity at Low Acceleration from Statistically Pure Binaries Free of Hidden Companions . The Astrophysical Journal
2024.01.28 18:43 | 固定リンク | 化学

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