マイナス営業で「行列話題店」
2023.09.28
接客しない、売上を重視しない、店内はわかりづらい…なぜ人気? 女性が行列する話題店の理由とは

ほかのショップでは在庫がある商品でも売り切れていたり、レジでも行列が珍しくないほど人気のセレクトコスメショップ「@cosme STORE(アットコスメストア)」。実は、「接客しない」「店は見渡しづらい」「売上を第一に求めない」と、企業からするとマイナスに思えそうな方針が功を奏している。どういう狙いなのかを取材した。

美容系総合ポータルサイト「@cosme」を運営する「アイスタイル」(東京都港区)グループによる同店は、2007年に1号店を新宿にオープン。現在国内に28店舗、海外では3店舗を展開している。

関西の人気商業施設「ルクア大阪」からのリクエストもあり、西日本最大規模となる旗艦店「アットコスメ大阪(以下、大阪店)」(大阪市北区)が9月1日にオープン。デパコス(デパートで販売されている化粧品、カウンターがあり高級志向のブランドが中心)の「シャネル」「スック」も同店として初めて加わり、「化粧品業界での見られ方が変わり、出来ることがグッと増えてきた」と代表取締役社長の遠藤宗さんが語るように、プチプラから高級ブランドまでが注目しているブランドへと成長している。

ちなみにプチプラと高級ブランドが同じ店内に並ぶというのは画期的だ。雑誌であれば、高級ブランドが、そのページで並ぶ商品に対して掲載可否を判断することも珍しくない。ましてや店舗であれば、そのハードルの高さはなおさら。しかも同店は、商品をテスターで試せるとあって、数百円と数万円の商品(ちなみに高額商品はスタッフへの声がけを)も、比べられ、品質が見極められる恐さもある。それを凌駕する魅力があるということなのだ。

はたして、どういった点が人気につながっているのか、遠藤さんに詳しく聞いた。

■お客さまのために…接客しない

関西の店舗はこれまで面積が限られ、混雑していたのもあるが、客側として見ていた限り接客の印象は薄かった。「お客さまが望まない限り、積極的な接客はいたしません。スタッフにも必ずしも今日売らなくていい、もしもお客さまが悩んでいたら、”今日は買わない”ことを勧めるようにと伝えています。気軽に入って、出られるお店であることを大事にしています」と遠藤さん。

そこで、気になるのは”買わなくていい”と言われた客側の反応だ。実際に、買わずに帰ることも多いらしいが、改めて来店する客も。特に印象的だったと話してくれたのが、翌日に戻ってきた客。悩んでいた商品は1点だけだったにも関わらず、5万円分も購入。その理由が「そんな言葉をこれまで言われたことなかったからだ」という。ほかにも買わなくていい気軽さを実感して、友だちを連れてくる客と顧客拡大へと結びついているそうだ。

■はたして、接客できるのか?

と、考えるとスタッフにコスメの知識が必要ないのではないのか?と思ってしまったが、「少なくとも2カ月に1回ペースでスタッフが本社で研修を受けるほか、取り扱いブランドの研修にも積極的に参加しています。また、当社は、他社の化粧ブランドの研修プログラムを組んでいる実績もあります。特定のブランドに所属すれば自社商品には精通していても、他社については詳しくないかもしれませんが、ここでは多様なブランドを取り扱うため、各ブランドの特徴などを把握した上で、お客さまにプチプラ、デパコス関係なく提案できます」とのことだ。

その結果、他店舗の接客でつい買ってしまった高級ブランドの使用法に困惑し、「これをどうやったら、手持ちのコスメと合うように使えるか」と常連が駆け込んできたこともあったそうだ。そんなスタッフの実力は、店舗でも落ちづらいと話題のリップをさらに落ちにくくさせる方法や、今トレンドとなっている中国風の「千金メイク」の肌の仕上げ方も、多種ブランドのアイテムを使って仕上げる方法などを聞いていると実感することができた。

■どこに何があるのか分からない!?

スーパーやドラッグストアなど多様なアイテムを扱う店では、どこに何があるのかわかりやすく、通路と棚も並行にまっすぐ並んでいるのが通例。しかし、ここはあえて什器もバラバラにして、入り組んだような店舗設計に。見やすさを重視するのではなく、どこに何があるのか分からない「テーマパークのような楽しさ」を目指したそうだ。

「化粧品を探す楽しさを体感してもらうために、あえて先が見渡せないお店に。コットンパフなどのアメニティを置く場所は、海外のコスメショップで発見した什器や、ランキングのコーナーはパリのデパート「ギャラリーラファイエット」のワインのディスプレイを参考にするなど、業界問わず参考にして、より楽しんでいただける空間を追求しました」

そんな遠藤さんはよく店内を歩き回っては気になる箇所を次々と指摘していると広報担当者。女性はどの高さが手に取りやすいか、鏡の位置が見えやすいか、通路は狭くないかなど。実際に、新店舗での開店日前日に、ある什器の鏡が、背伸びしないと見えづらいと感じ、変更することを決定されたとのこと。

「スタッフも改善点を見つけたら僕にすぐに指摘します。部門が違うと見えてくるものが違うこともあり、みんなの目線で伝えてくれますね。ちょっとしたことでも不便だと感じたことがお客さまの店の印象を決定づけてしまうので、常にお客さま側の気持ちでいたいと思います」。

■合計金額よりも合計点数が大事とは?

店舗にとっては大事なのは売上かつ購買率。しかし、先述の通り、望まれなければ接客しないという方針のもと、店舗が客に魅力的に映っているのかどうかを計るのに、「買い上げ点数」を指標としている。気になるものが試せるようにテスターの準備、テーマによって編集したディスプレイに注力。人気のコスメがひと目でわかる「ランキング」の棚は、大阪店であれば大阪バージョンと、歴代のものが並ぶエリアと2カ所設置し、興味・好奇心がわきやすいように。また、スタッフによる手書きの熱量がこもった推薦文もポイントとなっている。

ちなみに2020年にオープンした旗艦店「@cosme TOKYO(以下、東京店)」はコロナ禍とあって当初は1人あたり購入点数は2.5点だったが徐々に伸びて、現在3.5点に。こちらは店舗が約400坪と広く約2万点がそろうとあって、他店舗よりも点数が多くなっているそうだが、通常は2.3~2.5点が平均。「点数が多ければ、それだけこのお店を楽しめていただけた証拠です」。

その買わなくていいスタンスは、大阪店の会見で同社の弱点とも思える「ポイント制度の弱さ」を指摘することにもあらわれていた。百貨店であれば、買上げ積算額に応じて5・7・10%のポイントがつくことを挙げて、同店では通常は1%であることを取材陣に伝えていた。確かに1%と10%では大違いだ、ほかのポイントをためやすいお店に行く可能性が高くなる。

「アットコスメストアで試して気に入った商品を、他店で買ってもらっても大丈夫です。ここでは化粧品を探す楽しさ、出会う楽しさを味わってほしい。僕たちは、いかにそういう楽しい「体験」を作れるかを追求していきます。大量に在庫は確保しているものの売り切れているときもあるので、そういったときはお客さまが周辺の店舗に行って買われて、そのお店から感謝されたこともありました」と遠藤さんは笑う。

■実際の客の反応は?

大阪店のオープン日初日に訪れた大阪府吹田市の60代女性は「普段はドラッグストアで買っていることが多いです。デパートであれば買わないといけない雰囲気になるのですが、ここでは自由にたくさん試せるのがうれしいですね。気づいたら、いろいろ見ていて1時間経っていました」、大阪市の20代女性は「ランキングで展示されているのもわかりやすく、知らないコスメと出会えるきっかけにも。東京店はYouTubeで見ていて、大阪でも点数が増えて広くなったのがうれしいです」と話してくれ、同店の狙いや長所は、客側にもしっかりと伝わっているようだった。

ちなみに目立つのは女性客だが、男性客も増えてきているのだそう。カップルの場合は、女性が見ている間に自身の化粧水などを試す男性も少なくなく、今回の大阪店では男性向けコスメのコーナーも設置している。「今や男性がスキンケア用品に気をかけるのも当たり前に。アイライナーなどを試している男性も東京では珍しくありません」と遠藤さん。

実際に大阪店でのレジでの行列でも、ちらほらと国内外の男性が並んでいたので、今後行列するのは女性だけではなくなる可能性も高そうだ。
2023.09.28 08:42 | 固定リンク | 経済

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