F-16がロシアをビビらせる2つの理由
2023.05.31
■F-16がロシアをビビらせる2つの理由──元英空軍司令官


F-16戦闘機に最先端兵器がついてくるだろうことはもちろん、F-16が将来配備されるだろうと思うだけでこれまでのロシアの軍事計画すべてが狂い、それがロシアを削って敗北させる

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は以前から、西側諸国に戦闘機の供与を求めてきたが、G7広島サミットでついにジョー・バイデン大統領のお墨付きを得た。元イギリス空軍の上級司令官で中将だったグレッグ・バグウェルによれば、ウクライナがF-16戦闘機を持つ利点の第一は、優れた航空電子機器を搭載するより現代的な戦闘機を手にする「戦術的利点」だ。これには強力な兵器システムがついてくる可能性も高い。

「(F-16)戦闘機と共に兵器システムが導入されれば、ウクライナはまったく新しく高度で射程も長いさまざまな武器を持つことになる」と、バグウェルは述べた。

イギリス国防省は5月11日、空中発射巡航ミサイル「ストームシャドウ」をウクライナに搬送したことを認めた(数は明らかにしなかった)。これによりウクライナ軍は、現時点で最も射程が長いミサイルを手に入れた。ウクライナ軍がより長距離の攻撃能力を手に入れるということはそれだけで、「ウクライナ国内におけるロシア戦力の配置や作戦のあり方を変えることになる」とバグウェルは指摘する。

英ロンドン大学キングスカレッジ・フリーマン航空宇宙研究所の共同ディレクター、デービッド・ジョーダンは、F-16にはさまざまな空対地兵器を搭載することができると指摘する。中距離空対空ミサイル「AIM-120」や、統合直接攻撃弾(JDAM)、空対地の対レーダーミサイル「AGM-88 HARM」などだ。

■配備前からロシアの神経を削る

もちろん、ウクライナ空軍が直面する課題も少なくない。F-16の運用に必要な人員すべてを訓練するには時間がかかるうえ、輸送や整備についても考慮すべき点が多々ある。ロシアのアナトリー・アントノフ駐米大使は5月22日、テレグラムへの投稿で、「ウクライナには、F-16を使うためのインフラが存在しない。パイロットや整備要員も不十分だ」と書いた。

それでも、ウクライナにとってF-16は長期的な国家防衛のために必要だと、専門家たちは考えている。

F-16をもつもう1つの利点は、ウクライナ側が新たに手に入れる長距離攻撃能力に、ロシアが「配備前から神経を尖らせる」点だとパグウェルは言う。「ロシアは、F-16配備で起き得る変化や、それが戦闘にもたらす影響について、配備前から神経を尖らせるだろう」

もちろんF-16の供与は、それだけでウクライナ側の勝利を約束するものではない。それでも、ロシアはこれまでと同じ戦略は使えなくなる。計画変更を迫られたロシア政府は、最終的に「劣勢に陥る」だろう、とバグウェルは語った。

■ロシアのミグ31やスホーイ35に勝てるのか

1992年以前に製造された、ソ連製戦闘機で戦ってきたウクライナ。F16のパイロット訓練には時間がかかるが、これを機にF35ステルス戦闘機への切り替えも促進できる

ウクライナがF-16戦闘機を導入することにより、同国の「空の戦い」は大きく変わるでしょう。F-16はアメリカ合衆国の製造する戦闘機であり、ソ連製の戦闘機と比較していくつかの利点があります。

まず、F-16は高い機動性と優れた運動性を持っています。これにより、ウクライナのパイロットは敵機を追跡し、優位に立つことができます。また、F-16はモダンなエレクトロニクスとセンサーを搭載しており、目標の捕捉や情報収集に優れています。

さらに、F-16は多目的な戦闘機として知られており、空対空任務だけでなく、地上攻撃や偵察などの任務にも適しています。これにより、ウクライナの航空部隊はより幅広い任務を遂行することができ、戦力の柔軟性が向上します。

また、アメリカ製の戦闘機は国際的な信頼性があり、広範なサポートや補給が利用できることも利点です。これは、ウクライナがF-16を運用する際に、維持管理や修理において重要な要素となるでしょう。

ただし、ソ連製の戦闘機に比べて、F-16はより高価な機体となります。ウクライナがF-16を導入するには、予算の調達や訓練などの面で課題も存在するかもしれません。

総合すると、ウクライナがF-16戦闘機を導入することにより、同国の航空部隊の能力は向上し、戦闘能力の拡大が期待されます。

西側諸国がついに、ウクライナにアメリカ製のF16戦闘機を供給することに決めた。これまで主にソ連製の(つまり1992年以前に製造された)戦闘機で戦ってきたウクライナ空軍にとって、著しい戦力のアップグレードになる。

パイロットや整備士の訓練は数カ月かかるから、F16がウクライナの空に展開するのは、早くても2023年末になるだろう。また、ロシアには強力な地対空ミサイルがあるし、資源も豊富だから、ウクライナは依然として苦しい戦いを強いられるだろう。

それでも、F16を供給する意味がないわけではない。

ウクライナはまず、デンマークやオランダから、初代F16ともいえるF16A/Bの改良型を20機前後受け取るだろう。ただ、アメリカの計らいで、さらに能力を向上させたF16C/D型機が供給される可能性もある。

何より重要なのは、F16の改良型には最新の兵器を搭載できることだ。最新のレーダーであるAESA(アクティブ電子走査アレイ式)AN/APG-83レーダー(別名セイバー)を装備していないのが痛い(これがあればロシアの戦闘機や巡航ミサイルに対して優位に立てる)が、これもアメリカが特別に手配する可能性がないわけではない。

ウクライナ人パイロットの訓練には時間がかかるかもしれないが、初期の報道では、それほど大きな問題ではなさそうだ。

全くの新人パイロットには、イギリスやフランスでジェット戦闘機の基礎訓練を行った後、ポーランドやベルギーでF16に特化した訓練をするが、ベテランパイロットはもっと短期間で訓練を終えられるだろう。

整備士の訓練には、もっと時間がかかるから早く始める必要がある。そのための資金計画や、実際の整備をポーランドやドイツなどの外国でやるか、ウクライナでやるか(その場合はテレビ会議ツールなどで外国から助言を受けつつ行われるだろう)といった判断も必要だ。

■運用環境の整備も必須

これまで運用してきたミグ29戦闘機は、滑走路のコンディションが少々悪くても離着陸できるようにエンジンが頑丈に造られているが、F16は胴体下に大きなエアインテーク(吸気口)が配置されており、異物を吸い込みやすい。

このためウクライナは、F16の整備施設の確保だけでなく、滑走路から瓦礫などの異物を取り除く手配が必要だ。これが何より大きな課題だと指摘する専門家もいる。ただ飛ばすだけなら、11年の合同軍事演習でウクライナの基地からF16が飛んだことはある。

ロシアのミサイル攻撃で全滅などという事態にならないように、F16の配備場所は、一握りの基地以外の場所にも分散させるべきだ。

ロシア国境や前線に配置されたロシアの長距離レーダーや地対空ミサイルの発射装置は、ウクライナ領内を飛行する戦闘機を発見して破壊できる。このためウクライナのF16は、超低空飛行でレーダーを避けようとするだろう。

それでもロシアのA50早期警戒管制機や、スホーイ35やミグ31といった戦闘機が、下方のF16を探知して攻撃する能力(ルックダウン/シュートダウン能力)を持っていれば、撃墜される可能性が高い。

このためウクライナのF16パイロットたちは、なるべくレーダーを使わないようにして探知を回避しようとするかもしれない。だが、それは目隠しをして飛行するようなものであり、敵の動きを知ったり、ミサイル発射のためにレーダーをオンにしたりするタイミングを地上からの通信に頼らなくてはならない。

■F-16は、スペックで優るロシアのスホーイSu-35戦闘機に勝てるのか?

ウクライナ戦争の空の戦いは最新型戦闘機を投入しているロシア軍優位だが、戦いは必ずしもスペックだけでは決まらない

ロシアのスホーイSu-35戦闘機は、アメリカ製の戦闘機に優るとも劣らない高性能の戦闘機とみられている。だが、ウクライナ空軍兵士が操縦することになるとみられるアメリカ製のF-16戦闘機と対戦すれば、撃墜されるのはSu-35のほうだろうと専門家は語った。

ウクライナ政府は以前からF-16戦闘機などの欧米製戦闘機の供与を要請してきた。それが実現しようとしている今、ウクライナ戦争における空の戦いの焦点が絞られつつある。

専門家によると、欧米製の戦闘機のなかでいちばんの注目を集めているF-16は、ウクライナ空軍をアップグレードする最有力候補だ。F-16にはいくつかのバージョンがあり、ウクライナにどのモデルが送られるかは明らかではない。

ウクライナは現在、ロシア空軍と似た旧ソ連時代のジェット機を運用している。ウクライナにF-16を供与することは、ウクライナ空軍が技術的に欧米の軍用機に大きく転換するだけでなく、軍事ドクトリンそのものもNATO式に移行することを意味する。

■スペックはロシア軍機が上

イギリス軍のフランク・レドウィッジによれば、ロシアのSu-35がウクライナ戦争で、アメリカ製のF-16と直接対決する可能性は低い。だが、Su-35はロシアで最も先進的な4.5世代戦闘機の一つと考えられており、F-16のような第4世代の戦闘機を撃墜するために「特別に」設計されている、と彼は本誌に語った。

Su-35はSu-27戦闘機の近代化バージョンで、ロシア政府が大半を所有する航空宇宙・防衛企業、統一航空機製造会社(UAC)によれば、「空、陸、海の目標に対する交戦効果を著しく高める」ように設計されている。Su-35の初飛行は2008年2月に行われた。

「書類の上ではSu-35は、ウクライナに供与される可能性のあるF-16よりも優れていると言えるが、それだけでは話は終わらない」と、英キングス・カレッジ・ロンドンのフリーマン航空宇宙研究所で共同ディレクターを務めるデービッド・ジョーダンは言う。

「Su-35の仕様からすれば、多くの点でF-15より優れた航空機といえるかもしれない」と、元英国空軍上級司令官グレッグ・バグウェルは本誌に語った。だが実際には「仕様だけでは判断できない複雑な事情がある」

たとえば、航空機がパイロットにどのような状況認識のデータを与えることができるか、という点も重要だと、専門家は強調する。

「敵機の位置を正確に把握している側がその分有利になる。ロシア軍機がウクライナ軍機の位置をおおまかに把握しながら飛行している時に、ウクライナ軍機がロシア軍機の位置をほぼ正確に知っているとしたら、目視できる距離に近づく前からウクライナ軍機が優位になるだろう」と、ジョーダンは指摘した。「ウクライナのF16は、ロシアにとって手ごわい敵になる」

「F-16とSu-35の対決の行方は、ウクライナ側が空中で使える兵器や機器の種類にかかっている。空中戦となれば、F-16は今でも世界最強クラスの戦闘機だ」と、アンドリュー・カーティス元英国空軍司令官は語る。「しかし、ロシアのパイロットは中長距離ミサイルを使って、離れた位置からの戦いを挑む可能性がある。それがうまくいけば、戦いはSu-35に有利に運ぶかもしれない」。

オランダの防衛分析情報サイト「オリックス」によると、昨年2月にウクライナ侵攻が始まって以降、22日までにロシア軍は3機のSu-35を失っている。ただし、この集計に含まれているのは目視で確認された損失だけなので、実際の数値は異なるかもしれない。

■欧州はF35に切り替え

現状、ウクライナ機の攻撃の多くはこの段階で失敗している。彼らが使うR27レーダー誘導ミサイルは、目標に着弾するまで、発射機の機首にあるレーダーが、誘導のために目標に照準を合わせていなければならないからだ。

ロシア側の戦闘機が、より射程が長く、ミサイル自体が目標を追尾できる(つまり発射機は飛び去ることができる)R77-1ミサイルで反撃してきた場合、ウクライナ機は飛び去る(ミサイルは目標に到達できない)か、自滅する(目標は破壊するが、自らも逃げ遅れる)。

F16なら違う。搭載可能なAIM-120中距離ミサイルは、R77と同等の射程を持つ上に、自動追尾機能があるため発射後は飛び去れるのだ。

それでもロシアが、より高性能のレーダーと、著しく射程が長いR37Mミサイルを搭載したミグ31やスホーイ35を投入してきたら、ウクライナ機に勝ち目はない。

スホーイ35に搭載されているイールビスEレーダーは、F16ほどの大きさの標的を、約200キロ離れた所から探知できるとされる。これに対してF16の改良型に搭載されたAN/APG-66(V)2Aレーダーが探知できるのは80キロ程度だ。

従って、F16の獲得はウクライナにとって大きな進歩だが、依然としてロシアの空軍力に真っ向から対抗できるわけではない。

オランダ航空協会が発行するスクランブル誌の編集者であるメナ・アデルは、F16と地対空ミサイルを組み合わせた戦い方を提案している。

「ウクライナ機は、(地対空ミサイルの)射程内にロシア機をおびき寄せて、できるだけ迎撃を遅らせることができる。また、西側の電波妨害装置はシステムを破壊したり、応援を遅らせて、ウクライナ機が逃げるのを助けられる。あるいはロシア機に近づき、至近距離から攻撃することで敵をつぶす確率を高められる」

F16は敵機攻撃のほかにも、空対地ステルス性ミサイル、AGM88HARM対レーダーミサイル、ハープーン対艦ミサイル、レーザー誘導精密滑空爆弾、AN/AAQ-33照準ポッド、電子対抗システムなど多様な兵器のプラットフォームになる。

F16の機動性と敵のシステム外から攻撃できる兵器を組み合わせれば、黒海のロシア艦艇やクリミア半島のロシア軍基地を脅かすことも可能だ。

小規模なF16戦隊ではロシアには勝てないが、敵の空中戦術を混乱させ、巡航ミサイルに対抗し、空、海、陸で戦争のコストを大きくできる。

何より、ソ連時代の戦闘機は改良できないのだから、ウクライナ軍に西側の装備の「種」をまく必要がある。この切り替えは、できるだけ早く始めるべきだ。

それをF16から始めるのは、良い選択だ。F16は運用コストが比較的低く、保守整備のリソースも世界中にある。しかもウクライナにF16を供給することで、西欧諸国はF16からF35ステルス戦闘機への切り替えを促進できる。

台湾がやっているように、旧型のF16でも高性能レーダーのセイバーを組み込む改良は可能だ。軽量戦闘機として重宝されてきたF16だが、それがウクライナに重量級の勝利をもたらす日は、さほど遠くないかもしれない。
2023.05.31 14:18 | 固定リンク | 戦争

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