退耕還林→退林還耕(穀物増産)穀物以外廃棄へ
2023.05.31



実は食糧輸入大国の中国、「退林還耕」で食糧危機に備え始めた 「退耕還林→退林還耕(穀物増産)へ」 穀物以外は強引に廃棄(キューリー・トマト(野菜果物) 中国の農村総合執法隊は農民を虐げているSNSで拡散

90年代末に森林を保護する環境政策として始まった「退耕還林」。それを習近平が捨てて「退林還耕」に転換した背景には、国際情勢の変化がある。

福建省のとある村のスイセン畑70畝(ムー)以上が政府の命令で強行破壊され、耕地に改造へ「成都市政府がかつて341億元で建設した緑地帯10万畝を耕地に改造へ」全く毛沢東時代の再来 退林還耕で災害食料飢饉も

最近の中国SNSやネット上でこんなニュースが流れた。習近平(シー・チンピン)国家主席の「1000億斤の食糧生産能力建設」という重要談話をきっかけに、「退林還耕」という政策が始まったらしい。中国通にとって「退耕還林」はよく耳にしていた言葉だが、退林還耕は初耳だっただろう。

退耕還林は洪水や土壌浸食など深刻な環境問題の緩和を目的として、1990年代末に始まった森林保護政策。一方、退林還耕は食糧危機を防止するため、緑地を農地に戻すことだ。

中国は農業大国だが、食糧輸入大国でもある。2021年だけでも、中国の食糧輸入総量は食糧総生産量の20%超に当たる1億6000万トン以上に達する。

西側諸国との関係の悪化や、特にロシアによるウクライナ侵攻や新型コロナウイルス禍は人口大国の中国に強い危機感を与えた。いつの日か起きる台湾武力統一のための準備も、重要な目的と推測されている。

環境保護のための退耕還林から、食糧確保のための退林還耕へ。中国が政策を逆方向に急転換するのは初めてではない。毛沢東の独裁時代から鄧小平の改革開放政策へと、かつて政治は180度転換した。

そして今、再び習近平は政治を180度転換し終身独裁へと舵を切ろうとしている。共通するのは共産党政権を強化するという目的だ。

退耕還林は環境保護が目的だったが、本音としては砂漠化を防止しないと共産党政権、そして中国そのものの基盤が崩れるという危機感があった。

鄧小平が改革開放の時に西側に頭を下げて資本主義の教えを請うたのは、経済発展がないと政権の正統性が失われるからだった。今、習近平が独裁に戻り、退林還耕を始めたのも、共産党政権を守るためでしかない。

鄧小平はかつて「韜光養晦(能ある鷹は爪を隠す)」という言葉を残した。改革開放の鄧小平も独裁の毛沢東・習近平も、共産党指導者の本質は同じ。習近平が退林還耕で食糧を確保した時、中国は「爪」を誰かに突き立てるだろう。

■中国の「退林還耕」政策が超ヤバい

中国政府は前世紀末頃から「退耕還林」(退耕还林)という政策を実施していた。これは行き過ぎた農地拡大に歯止めをかけるもので、あまり生産効率のよくない畑や林や山に戻すことを指す。それによって洪水や土砂崩れなどの災害を抑えるという目論見だ。

中国政府がその方針を180度転換させ、退林還耕(退林环耕)を強力に推進している。

これは習近平主席のトップダウン政策で、食糧自給率を上げることで国力を強化するという狙いだ。世界各国で食糧安保が叫ばれる今日この頃、食糧自給率向上は急務だとは思うのだが、独裁国家ならではのトンデモ事件が頻発している。

一例

・四川省成都市中心部に近い緑地公園(多額の費用をかけて造成)を畑に変更

・バナナやショウガの畑(栽培中)を強制的に潰して主食の農地に変更

・植林した山を坊主にし、重機を使って頂上まで千枚田or段々畑を造成

この政策がどのくらいヤバいかというと、中国共産党政権を永年に亘りヨイショしまくっている中日新聞グループが「懸念のお言葉」を表明。

・農地に向いてない所に畑を作って食糧(主に米・麦・トウモロコシ)が生産できるのか

・こんな山の方に農地を作ったら誰が面倒を見るのか

・あぜがひび割れており、大雨が降ったら崩壊しそう

・野菜や果物の栽培をやめて食糧を生産するとして、穀物だけ食って満足できるのか

・1950年代の「大躍進」の二の舞になるのではないか

という内容である。

■山林を耕して農地を作る中国

1998年夏、中国に100年ぶりの大洪水が襲った。水害現場に駆けつけた首相の朱鎔基は波頭が立つ堤防に上り「抗洪(洪水に勝とう)」を叫んだ。雨を浴びながら濡れそぼった半袖姿の首相が抗洪を絶叫し、長江に散った涙は中国人民の心を動かした。崩壊する堤防を人間の鎖で守った。しかし被害は大きかった。約3000余人の死亡者に1500万人の水害民が発生した。

何が問題だったか。どしゃ降りの雨は明らかに天災だったが途方もない死傷者の背後には人災があった。もともと河川の両側には広い遊水池があったが、人々が住み着いて畑を作るなどしていつの間にか生活の拠点となった。洪水になると多くの人命被害が出ざるを得ない構造だった。そのため出てきたのが「退耕還林」政策だ。農地を放棄して再び森を作ろうというものだ。

ところが20年以上にわたり進められてきた退耕還林政策が最近、逆の方向に進んでいる。昨年、ウクライナ戦争が起きて食糧安保問題が台頭したことを受けて森を切り開き農地にする「退林還耕」措置が推進されている。昨年の春、習近平国家主席は各地方政府に農地を徹底して保護するよう厳命を下した。その間の退耕還林政策にも、産業化と都市化の影響で耕作地は右肩下がりだったためだ。

2009年から2019年までの10年間、中国の農地は1億1300万畝(1畝は約200坪)が消え、現在19億1800万畝程度だ。中国の目標は農地18億畝を死守し、年間6億5000万トン以上の食糧を生産することだが、このままでは危険だと判断した。そのため耕作地確保を「政治の任務」にすえて100億人民元(約1,950億円)を農家にバラまいて農地開墾を奨励している最中だ。

しかし問題が噴出している。多額の資金を費やして整えた山林と緑地が毀損されている。四川省成都は400億元を投じて都心郊外周辺循環道路周辺に作った緑地を耕して農地にした後、小麦など農作物を植えた。また、完工を控えた公園を撤去して農地に変えて住民の怒りを買っている。中国当局は衛星を利用して農地が十分に活用されているかどうかまで監視している。

食糧安保に総力を挙げる中国の姿はさまざまな想像の空間を提供している。過去8年間連続で目標値以上の食糧を生産したにも関わらず非常措置を取るということは、ひょっとして台湾海峡での武力衝突のような非常事態に備えているのではないか、という点でだ。
2023.05.31 06:24 | 固定リンク | 国際

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