イラン「反政府デモ開始から100日」
2023.01.02
「もう元には戻れない」 反政府デモ開始から100日、イランで今起きていること
イランで反政府デモが始まって100日が経過した。1979年のイスラム革命以来、最も長い抗議行動は、イラン政府を揺るがしているが、多くの人が犠牲となっている。
人権活動家通信(HRANA)によると、これまでに69人の子供を含む500人以上の抗議参加者が殺された。人権擁護団体アムネスティ・インターナショナルが「見せかけ」と呼んだ裁判を経て、2人が死刑を執行され、少なくとも26人が同じ運命に直面している。
抗議行動がイラン全土に広がったことはこれまでもあった。2017年に始まったデモは2018年初めまで続いた。2019年11月の抗議も同様だ。しかし現在のデモは社会全体を巻き込み、「女性、命、自由」のスローガンを掲げた女性たちが先導しているという点で、全く異なっている。
一部の著名人たちが抗議を支持すると発表し、逮捕されたり、国外へ逃げたりしているのも特徴の一つだ。
2017年2月に米アカデミー賞外国語映画賞を受賞した「セールスマン」に主演した俳優のタラネ・アリドゥスティさんは、若い抗議参加者の死刑を批判した後、悪名高いエヴィン刑務所に入れられた。アリドゥスティさんはそれ以前にも、着用が義務付けられている頭髪を覆うスカーフを取り、スローガンを書いた紙を持った写真を公表していた。
「セールスマン」のアスガル・ファルハディ監督はインスタグラムに、「私はタラネと4本の映画で一緒に仕事をした。彼女は同胞を正しく支持し、不当な判決に反対したために獄中にいる」と書いた。
「こうした支持を示すことが犯罪なら、この国の数千万人が犯罪者だということになる」
「殺害予告」
イランを離れた俳優のペガフ・アハンガラニさんはBBCペルシャ語の取材に対し、「体制側の取り締まりと映画関係者の対応、双方が過激化している」と語った。
「イランはマサ・アミニさん以前の時代には戻れない」
現在のデモは、マサ・アミニさん(22)が9月16日、頭髪を覆うヒジャブを「不適切に」着用していたとして道徳警察に逮捕され、その後死亡したことがきっかけになっている。
12月初めにアメリカにわたった俳優のハミド・ファッロクネザドさんは、イランの最高指導者アリ・ハメネイ師を「独裁者」と呼び、スペインのフランシスコ・フランコや旧ソ連のヨシフ・スターリン、イタリアのベニート・ムッソリーニになぞらえた。
元サッカー選手でドバイに住んでいたアリ・カリミさんも、抗議を支持している。カリミさんは、イランの情報機関職員から殺害の脅しをかけられたため、アメリカに移動したと話した。
インスタグラムに1400万人以上のフォロワーを持つカリミさんは現在、イラン政府批判の急先鋒となっている。
同じく元サッカー選手のアリ・ダエイさんは、全国的なストライキへの支持を表明したところ、司法当局から、経営している宝石店とレストランの閉鎖を命じられた。
今回の抗議が他と違うもう1つの点は、抗議者が火炎瓶を使用し始めたことだ。
これらは、準軍事組織バシジの拠点やハウザ(シーア派聖職者の宗教学校)に対して使用されている。
「ターバン落とし」
抗議の最前線に立っているのはイランのZ世代(1997年以降に生まれた世代)たちだ。厳しい宗教的な規則に反抗し、スカーフに火をつけるなどの新しいトレンドを作り出している。
若者たちの間に生まれた別のトレンドに、「ターバン落とし」がある。シーア派の聖職者の後ろに回り込み、ターバンを落として逃げ出すというものだ。
ジャーナリストのオミド・メマリアン氏はツイッターに動画を投稿し、「テヘランでスカーフを被っていない女生徒が聖職者のターバンを落として逃げ出した。ターバン落としは体制とのつながりや特権、汚職、抑圧の象徴に抗議する活動だ」と説明している。
16歳の少年アルシア・エマムゴリザデフさんは北西部タブリーズで11月、この「ターバン落とし」をした容疑で逮捕された。
エマムゴリザデフさんは10日間拘束され、釈放された2日後に自殺した。遺族は刑務所での扱いに原因があると非難している。遺族に近しい関係者はBBCペルシャ語に対し、拘束中にエマムゴリザデフさんは棒で殴られたほか、謎の錠剤を飲まされたと話した。
イラン当局は抗議参加者を抑圧するだけでなく、拘束中に亡くなったり殺されたりした人の遺体を取引材料にし、犠牲者の遺族を黙らせている。
ある情報筋はBBCペルシャ語に対し、こうした圧力を恐れるあまり、殺された抗議者の兄弟が遺体を安置所から盗み出し、数時間にわたって市内を車で逃げまわる事例もあったと話した。
メフラン・サマクさん(27)は11月29日、北部バンダル・アンザリで、イランがサッカー・ワールドカップ(W杯)で負けたことを喜んで車のクラクションを鳴らしたところ、頭を銃で撃たれて亡くなった。イランでは多くの人が、政府を代表しているチームだとして、W杯でイランを応援しなかった。
また、拘束中に亡くなったハメド・サラフショールさん(23)の遺体は、家から30キロ離れた場所に強制的に埋葬された。サラフシュールさんの遺族は、のちに遺体を掘り起こした際に、ひどい拷問の痕跡を見つけたと話した。
処刑と拷問
12月25日までに、2人の男性が抗議に絡むあいまいな治安妨害罪で有罪とされ、死刑に処せられた。人権団体は、重大な誤審だと非難している。
死刑執行を待つ多くの人が、拷問されたと証言している。
非政府組織(NGO)のクルディスタン人権ネットワークは、クルド系イラン人ラッパーで死刑を宣告されたサマン・ヤシンさんが、20日に自殺を図ったと発表した。同団体は先にも、ヤシンさんが拘束中に拷問を受けたと述べている。
BBCペルシャ語が入手した音声では、アマチュア・ボディービルダーのアハンド・ヌールモハマドザデフさん(26)が刑務所内で数回、拷問の一種である模擬的な死刑執行を受けたと訴えている。
ヌールモハマドザデフさんは11月、テヘランでの抗議でガードレールを倒し、交通妨害をした容疑で拘束され、「神への敵意(イランの法律で武器による治安妨害を指す)」の罪で死刑判決を受けた。ヌールモハマドザデフさんは罪状を否認している。
BBCペルシャ語はさらに、投獄されているハミド・ガレ=ハサンロウ医師のレントゲン写真を入手。肋骨3本が折れ、肺に刺さっていることが確認できた。ガレ=ハサンロウ医師は、「地上に腐敗を広めた罪」で死刑判決を受けている。
アムネスティ・インターナショナルは情報筋の話として、同医師は「自白」を強要され、そのために拷問や不当な扱いを受けたとしている。