札幌教会牧師 斉藤忠碩

第九戒−隣人に関して偽証してはならない−
(出エジプト記20・16)

 この戒めは、内面的、精神的戒めでなく、具体的な状況において偽証することを禁じています。当時の法廷における証人はふたり以上を必要としました。(民数記35・30、申命記19・15〜19。)
 ふたり以上の証言が内容的に一致しないかぎり、律法違反とはみなされませんでした。(その意味でイエスの裁判は違法的に行われた ―マルコ14・55〜64。)

 つまり、第九戒は、虚言一般を禁じているというよりは、特定の法廷における「偽証」を禁じているのです。すなわち、単に「うそを言わない」ということよりも、現在困窮の中にある「隣人のために真実を証言する」ということが大切なのでした。

 そして、「偽証」の罪は厳しく罰せられました。「あなたは憐れみをかけてはならない。命には命、目には目、歯には歯、手には手、足には足を報いなければならない。」このようなイスラエルにおける「偽証」に対する厳しい姿勢は、単に状況における「ことば」だけでなく、信仰問題に私たちを導いてくれます。

 W・バークレイは真実を語るために、少なくとも三つの取り除くべきものがある、と述べ、それは「偏見」「利己」「自己防衛」だと語っています。このどれ一つとってみても、信仰による厳しい戦いを要求するものです。私たちがまず神の前にへりくだり、砕かれた思いをもって神の真実のみが現れることを祈らずして真実を語ることはできません。

 神の真実を求める者にとって、ことがらは「私」の問題です。私が証言しなければなりません。私たちの周囲にある欺瞞的なこと、隣人の隠された不当な苦しみ、これらについて私たちは偽証してはならないのです。