札幌教会牧師 斉藤忠碩

第五回-父と母を敬え-

「あなたの父母を敬え。そうすればあなたは、あなたの神、
       主が与えられる土地に長く生きることができる。」
(出エジプト記20・12)

 この五戒において、この戒めを守れば、与えられる祝福が示されています。この祝福は、神から 「土地 」すなわちこの世の富と、その時代の神の祝福であった「 長寿 」に恵まれるということです。そしてこれらの祝福の条件は、父母を敬うことにあると言います。また申命記には次のようなことが書かれています。「 今 日 わたしが 命じるこれらの言葉を心に留め、子供たちに繰り返し教え、家に座っているときも道を歩くときも、寝ているときも、これを語り聞かせなさい。…」(申命記6章)

 このようにユダヤ人は神の恵みを子供たちに語り聞かせることを、親としてもっとも大切に考えていました。そして子供は、両親を通して、神の愛、神の存在を知ったのです。

 旧約聖書の中で理想的な親孝行をしたのは、死んだ夫の母ナオミに対するモアブの女ルツです。彼女は夫が死んだとき姑から実家に帰るように勧められたのに姑のもとに止まり、彼女に尽くします。第五の戒めを誰よりも実践したのが、ユダヤ民族の出ではないモアブ人で、しかも女性であったということはユダヤ人にたいして、神に本当に忠実なのは、出身や血縁ではなく、真心であると語っているのです。

 一方律法には、恐ろしいことが記されています。「自分の父あるいは母を打つ 者は、必ず死刑に処せられる。…自分の父あるいは母を呪う者は、必 ず 死 刑 に処せられる」(出エジプト記21章)。このような罰が実際に行われたかどうかは疑問ですが、いずれにせよ、ユダヤ人においては子に対する親の権威は絶大なものでした。このように旧約聖書は親の愛というものは、ただ甘やかすものではないことを教えています。そしてまた「あなたの父母を敬え」と命じているところに十戒の特色があります。すなわち、父の権威は絶大なものでしたが、母親は父親の子供を産むための道具ぐらいにしか考えられなかった、また女性の地位が低かった古代の世界にあって、ここでは、父と並んで同等の 権威をもつものとして母親を敬えと命じているのです。

 現代に生きる私たちは、何を子供に遺産として残そうとしているでしょうか。私たちは信仰を遺産として子供たちに残していきたいものです。これが信仰の継承なのです。