札幌教会牧師 斉藤忠碩

第一戒-真の知恵の基-

「あなたは、わたしをおいてほかに神があってはならない」
(出エジプト記20:3)

 この第一戒は、神との唯一無二の関係に生きることを命じています。そして多くの神々の中にあって、「主(ヤハウェ)なる神のにを拝する」という拝一信仰をあらわしています。その背景にあるのは「熱情の神」(出エジプト記20:5)という情熱的な思想です。ヘブル語の「神」(エロヒーム)という名がすでに複数形であって、多神教的な時代の影響を残しています。そのような多くの神々のあるただ中で、「主」(ヤハウエ)のみを拝するという信仰は、今日の私たちにとっても深い異議を持っています。

 多神教であったエジプト、バビロニア、ギリシャの宗教は、高度に発達した宗教文化を生みだしました。しかし精神的、倫理的には、原始宗教と同様に実りなき終わりを告げました。多神教においては、結局倫理的義務や責任の意識が乏しくなり、良心の真剣さも失われざるをえません。「唯一の神の意識は一世界、一人類の意識を産みだした」(A・B・デヴィドソン)と言われるように、第一戒は人間普遍の倫理の基礎条件をなすものといえます。

 しかし決して偏狭な独善的な戒めではありません。それはこの世の中のすべての偶像的なもの、富、イデオロギー、エゴイズム等の「神々」を追求し、人間が人間となり、この世がこの世となるために具体的な道を告知しているのです。私たちは喜びと感謝をもってこの戒めを聞き従いましょう。イエス・キリストにおいて具体的に開かれた「唯一の神への服従」の道こそが、全人類を神の喜ばしい被造者として解放する道へ導いてくれるのです。

「主を畏れることは知恵の初め」(箴言1:7)と記されています。第一戒は、この世に関する神の知恵の基を私たちに教えてくれているのです。