千田好夫の書評勝手

またも換骨奪胎

インターネットには様々な情報があふれている。それを渉猟してネットを駆け回るのは楽しい。あふれる情報に立ち向かうには、こちらにテーマがないと情報の海に溺れてしまう。今回は「バリアフリー」。もっとも電話代には注意しなければならない。あーあ、つなぎ放題にしたいね。まず、Yahooに接続して「バリアフリー」を検索。カテゴリーで165、ページで4056現れる。これが普通の、たとえば「自動車」とか「プリンター」とかの項目であれば数十万件だから、少ないけれど4056ではもちろん一度に見るのは不可能だ。それにしてもこのくらいの数が現れるのは、それだけ社会が「バリアフリー」に注目してきていることは間違いない。

私が「バリアフリー」を検索したのは、単なる設備の改善ではなく、どのように社会に広めていくかという考え方を知りたいからだ。いろいろページをめくって出会ったのが、東京の「バリアフリー協会」のホームページ。こういう団体があるのをこの段階で初めて知った。そのニュースレターの第三号に「タウンモビリティが全国展開」というのが出ている。「タウンモビリティ」とは何だ? MIUSA(モビリティ・インターナショナル・アメリカ)と何か関係があるのか? と思わず目を向ける。

イギリスの老人が電動スクーターに乗って街の中を動いている写真が出ている。それだけなら別段どうということはない。しかし、その説明に注目。

「英国ではショップモビリティ」

  1. 街の中心部(商店街)にスポットをあてている。
  2. 中心部までのアクセスは、低床の巡回バスか自家用車
  3. 中心部に「ショップモビリティ・オフィス」を設置。
  4. 申し込みによりエスコートが同行。(ボランティア)
  5. 無料貸し出し用として電動スクーターや車いす(計10台以上)が準備。
  6. 高齢者などの来街により街が潤い、商店街は自主的にバリアフリー化に取り組む。
  7. 大方の都市では、企業からのチャリティを受け、非営利組織(NPO)によって運営。一部の(都市)では自治体からの助成。

と出ている。

 これにはちょっとはっとさせられた。旅行や買い物などに電動スクーターや電動車いすは大きな威力を発揮するが、そこにとどまらず、イギリスではすでに170の都市が町おこしの一端として考えて実行しているのだ。そこで「タウンモビリティ」で検索しなおすと、今度はたった1件。それは広島を中心に活動している団体のホームページで「貸出サービスがはじまっています」と出ている。「えっ! もう日本でもやっているの」とみると、広島県の地図の上に星が3つ。「らくらくえんオフィス」に電動スクーター5台、「お元気ですか」に2台、「国営備北丘陵公園」に6台と出ている。

既にやっているのはいいが、この数字はいったい何だ? 広い広島県にたった3カ所、電動スクーターが合わせて13台。これで町おこしになるのか。私は思わず、公民館などの入り口に置かれてはいるが、誰も使わず錆びついている車いすの姿を思い浮かべた。検索を続けると日本中で十数カ所似たようなことをやっているのがわかった。やはりいずれも2台から6台。どおりで聞いたことがないわけだ。

まねするのは早いが精神を骨抜きにする日本のやり方が、またもこのモビリティに出ている。やってみるのは悪くはないがあまりに形ばかりだと、頭にきてしまった。短い時間で新しい考え方に出会い、その日本での換骨奪胎ぶりにふれる。そんなことがわずか数時間で出来てしまうのだから、インターネットはうかうかとはしてはいられないことを再確認した。でもこのモビリティはちょっとやってみたい。