きみは「お腸夫人」を知っているか。知らないかもしれないな。実はわたしも飲んだことがないんだ。ここでは、わたしが本日2003年4月17日にダイドードリンコから一箱のサンプルが送られてきてから、お腸夫人を飲んだり語ったり誰かに勧めたりするであろう過程をすべて記録する。お腸夫人が発売されてからもう一月以上経ってしまったが、遅ればせながら、わたしも清涼飲料水の歴史のはかない泡沫の一つを追ってみようと思う。
一箱ただでもらってしまったので、きっと評価は偏ると思う。いやもう、絶賛するに違いない。絶賛する気マンマンである。わたしはただ、このへんてこな商品名を絶賛したい。そして縦ロール髪に忠誠を誓う。なんだか自分でもよく分からない一方的な愛情を、こうして書きつける機会を得たことに感謝したい。でも、今日はもう遅いので飲まずに寝ることにする。夜更かしはお肌によくありませんのよ。
さて。ながらく報告が途絶えてしまった。今日は職場から早く帰ってきたので、耳から紫色の汁が出るまで飲ろうと思う。
ふたを開けてみる。うむ。お嬢さん30本である。6本をひとまとめにした紙の包装で、これが5個納められて30本。紙の包装の正面、上面、および底面それぞれを写しておく。この状態で店では売っていないので貴重なのである。 | |
6本を取り出してみる。「お腸婦人」のびんの外装はなかなか凝っていて、5種類の絵柄がある。お嬢さんの台詞からそれぞれを「すっきりなすったら?」「お腹にはプルーン。覚えてらして。」「この一本、お腹によろしいのよ!」「手加減しなくってよ!!」「お飲みなさい。お腹のために。」のように呼んで区別することができる。この6本の内訳は「すっきり」3本、「この一本」2本、「覚えてらして」1本であった。6本の箱買いをしても全種類は揃わないということになる。 | |
さあ出発だ。いま陽が昇る。希望の光両手につかみー。最初の一本を手にとってふたを開けて口に含む。味は思っていたより酸っぱいのである。どうも甘ったるい乾燥果実のようなものを想像していたが、お嬢さんは甘くてそして酸っぱい。この酸っぱさはわたしはよいと思う。勢いよく4口ほどで最初の1本を平らげてしまった。 | |
もうどんどこ飲んでいく。お嬢さんをたずねて三十本。草原のあずまさんはふたを開けては飲んでいく。たった3口で飲んでいく。すごい早さで飲んでいく。 | |
わたしはときどき田辺製薬の「エビオス錠」を飲んでいる。これを飲むと胃の調子がよくなって痛みが和らぐのである。ついでなので、この紫色の甘酸っぱい飲み物で錠剤を胃の中に流し込む。この錠剤は10錠を日に3回も飲めと用法に指定してある。飲むのは日に1回ぐらいのものだけれど、せめて10錠という数は守っている。この錠剤がまた妙な味でしかも粒がでっかい。さすがにプルーンの酸味は強力で、このおいしくない錠剤の味を消してしまう。 | |
わたしは液体というものをあなどっていたのかもしれない。世の中には水分が欠かせない方々がいらっしゃる。ペットボトルご用達な方々がいらっしゃる。わたしはかくのごとく大量の水分を口にすることに慣れていない。かりにこれが「王将の餃子4人前(24個)」なんかだったらわたしは黙々と食べたことだろう。餃子はかみ砕かれてのみ込まれて、闘って叩かれて裏切られて胃液のプールの中へ落ちて体積を小さくしていくのだ。 | |
しかし、この液体というやつは歯でかんだりしてもちょっとしたすき間からすり抜けていく。形を自由に変えられるがゆえに、本当の姿は全く変わることがない。透明なびんの中にある紫色の液体の体積そのままで、いまわたしの胃の中にいらっしゃるのである。ああお嬢さん。あなたは強い。塩化水素のプールの裏切りにも耐えて闘っている。それどころかわたしを内側から責めていく。 | |
お嬢さん6本ぶんの体積は600ミリリッターである。だんだん苦しくなってきたが飲み終えた。わたしは、30本の半分の15本はやっつけるつもりでいた。夕食とお嬢さんは別腹だと思っていた。だがそれは危険な予想だった。液体は決して屈しない。どんな形にも姿を替え、そしてまた安定な居場所を見つけるとすぐに仲間どおしで集まる。わたしは単なる満腹感による腹部の膨張感とは異なる違和感を感じている。 |
けれどマルコおまえは来たんだ。アンデスにつづくこのみーちーをー。じゃかじゃかじゃかじゃかじゃん。この妙な感じはなんだろう。胃液が薄くなっているのがいけないのだろうか。いまわたしは600ミリリッターのお嬢さんと闘っているんだとはっきり分かる。ここで、果てしない戦いの一段落に一服の清涼剤があらわれる。
紀和製菓株式会社謹製「デラックス満月」の登場だ。えびが入っていて、白くて薄くて丸いせんべいである。カルビーの「かっぱえびせん」じゃない方のえびせんである。わたしはえびのせんべいは世界で最高にうまい菓子だと思う。「カレーせんべい」とか「サクサクおせんべいあっさりサラダ味」よりさらにうまい、すばらしい菓子である。 |
「お腸婦人」の味はさわやかすぎてつらいのである。せんべいばかり食べていたらきっとわたしは本当にお嬢さんの酸味を欲したことだろう。わたしは600ミリリッターの紫色の液体と闘う胃を応援するような気持ちでせんべいを少しずつかんでは飲み込む。
トイレに用足しにいって尿の色とにおいを確認する。べつに紫色になるわけでもなく、においにも特に気がつくような変化はない。ここまで書いているうちにもう夜中の11時をすぎてしまった。そしてまた用を足しに行く。こんどは腹部の重さと便意を催す。かといっておなかを壊したわけでもないようだった。さすがはお腸婦人。わたしは別に便秘をわずらっているわけではないが、もう効いてきたのか。
次なる戦いのためにお嬢さんを冷蔵庫まで出向いてお呼びする。
きっと、明日目が覚めたとき、わたしは身体の異変に気づくだろう。ときおり胃から空気がのぼってきて、口からげっぷが出る。プルーンのにおいがのどを通って鼻の奥に届く。わたしは一晩かけてお嬢さんに犯されていく。
さて。一晩経った。
昨日は12本を立て続けに飲ってからしだいに腹部が重くなって困った。なかなか治まらないのだけれどあきらめて寝た。そして朝目覚めると治っていたのである。
異変がないのが不思議なのである。朝起きてまずやることといったらアレです。おしっこです。あれだけの水分をとりながら、尿の量はいつもと変わらない。なぜだー。ただ、いつもに増して頭がぼうっとする。
のどの奥から果実臭がかすかに伝わってくる。これは朝食べたパイナップルのものなのか、昨晩のプルーンなのか。わたしには区別がつかない。もう道ですれ違うおねいさんのコロンに入っているわずかなアルコールまでもがプルーンのにおいに思えてくる。
帰宅してから糖分の取りすぎがもたらす身体への影響について簡単に調べてみる。ひとしきり青ざめたので、これからは少しずつ飲むことにする。
また次の一箱に手が伸びてしまう。罪なお嬢さんなのである。 | |
そもそも1本100ミリリットルとは量が少ない。2本ぐらいすぐ飲んでしまう。この酸味がたまらなくいい。 | |
6本の内訳は「お飲みなさい」3本、「この一本」2本、「すっきり」1本であった。 |
なんだか頭が痛くなってきた。これはなにかの危険信号のような気がしてする。6年ぐらい前に、セーラームーンのシールを集めるために大量のウェハースチョコを食べ続けたころを思い出す。あのときも、チョコレートとコーヒーのやりすぎで頭がぼーっとしていた。