千田好夫の書評勝手

バランゴンバナナ

この絵本は、副題を「島からとどいたバナナの絵本」という。バランゴンバナナ産地、フィリピン・ネグロス島の伝説や人々の生活の状況を日本側で文章にしたものだ。オルター・トレード・ジャパンはバランゴンバナナを直接産地の人々から輸入しようと設立された。この本には、日本の「さるかに合戦」とそっくりな昔話があったりしておもしろい。

さて、フットルースの交換プログラムでは、食事の内容には毎回悩まされるが、今回は軽食の一部としてこのバランゴンバナナを1回出してみた。アメリカ側にバナナアレルギーの人がひとりいたので、その人にはかわりにゼリーを出した。そのせいでもないが、忙しすぎてバランゴンバナナについて説明しそびれた。

しかし、あらためて説明しようとすると、どう説明するのか迷ってしまう。フェアトレードあるいは「民衆交易」によるバナナといえば、その通りだが、自分の心にストンと落ちてこない。それは今のご時世で「帝国」アメリカの人々となぜ交換プログラムをやるのか説明するのと、レベルは違うが同じようなもどかしさを感じる。むしろ、オレゴン州ユージーン市の状況を知っているだけ、後者の方が説明しやすい。私はネグロス島について、またその地の人々について何も知らない。

だからといって、このバナナが無農薬でつくられていることだけを強調すると、「先進国」住民の無責任な「健康志向」に迎合することになる。その「健康志向」に障害者がいかに苦しめられ、「途上国」の自然がいかに破壊されているのかを思い起こしてしまう。

もちろん、「民衆交易」という観点は重要だ。大商社や大プランテーションによる、価格が安く見た目のきれいなバナナしか知らないわれわれが、産地の環境と人々の状況を知り産地の人々と直接交易することで、その支えとなり、同時においしくて安全なバナナを食べられて、われわれ自身も支えられるという関係をつくるということなのだから。

でも、くり返すが、私はネグロス島について、またその地の人々について何も知らない。全て実感しなければとか、体験しなければわからない、というつもりは毛頭ない。しかし、この絵本を読んだのがプログラムの後だったのが残念だ。交換プログラムだってフィリピンの人々と行なってもいいかもしれないとさえ思う。

それにしても、このバランゴンバナナは、見た感じはあまり大きくない。少し大きめのモンキーバナナのようだ。緑色がかっていて、まだ熟していないのかと思うが、これがちょうど食べ頃で、とても甘い。それが自然な甘さで、普通のバナナのような芋くささがない。なかなか優れものだ。ぜひ、食されてみてほしい。