千田好夫の書評勝手

……の反対は?

「反対の賛成なのだ」といえば、いまだに人気のあるバカボンのパパ。でも、これは漫画じゃなくて童話。作者はアメリカの詩人、ついでに挿絵も描いている。訳者も詩人。半分言葉遊びで、普段は考えないいろんな「...の反対」が、子どもたちとお話している間に出てきた。本当は英語のままで読めば言葉遊びの部分まで楽しめるのだが、いまはアイデアだけいただこう。

まず、例題。「ぼうし」の反対は、「くつ」。両方とも身体を守るが、頭とつまさきにある。それでは「くつ」の反対は?「ぼうし」では落第。「右足」か「左足」。いま君がどちらのくつを手にしているかによっている、というわけ。「バット」の反対は「ボール」。それでは「ボール」の反対は?もうひっかからない、「ミット」?うーん、今一。「流れ星」だよ。だって地面にぶつかると、でっかい穴をつくる。はずみかたも、ころがりかたも知らないんだ。こういう話が39もある。

さて、ここからは応用問題だ。「障害者」の反対は? まさか「健常者」なんて言わないよね。それは「オリンピック選手」だ。国民の期待がどちらにかかっているかは明らか。だからオリンピックとパラリンピックは決して同時開催されない。ちょっと興ざめ。それでは「自動車」の反対は?「てくてく歩く」でもいいけれど、「車いす」。みんなが乗りたいと思い、みんなを乗せれるのはのはどっちかな。残念だけれど、車いす自体はユニバーサルとはいえない。ローテクだから専用道路がいらないのはいばれる。「自動車」の反対は「森林」というのもある。排ガス規制の悪玉と善玉。どうもおいらがやると詩的ではないね。

それじゃ、「ねこ」の反対は?もう「ねずみ」じゃないのはわかる。そう「いぬ」。犬はとっても気をつかって気の毒なくらいだが、ねこは知らんぷりの名人だ。

えっ、まだだめ。じゃ、この「書評」。猫の耳に念仏。なにっ、念仏ほどありがたくないから、小判がいい。マネーならなおさら結構。ところでマネの反対はモネ。先立つものはマネー。どちらも印象派の画家だが、マネが先輩だ。長野県知事に当選した「田中康夫」というのもあり。マネといえば「草上の昼食」。近代絵画で初めて裸婦を描いた。ごうごうたる非難がまき起こったが、本人は「リンゴと同じに思え」と澄ましたもので「落選画家展」に出品した。でも非難の一つのポイントは、一緒に描かれている男たちが服を着てたから猥褻というもので、それには答えてほしかった。「田中康夫」の反対は「村上龍」。先月号で紹介した本に、田中康夫らしき作家を揶揄している。ちっとも小説を書かず運動ばかりしてるって。

こんなふうに、いくらでもつながっていけるけど、やっぱり詩的じゃない。どうしても社会批評になる。この本の中にはそういう要素はないのかって? うーん、「well」(健康)の反対は「sick」(病気)だけど、ものごとを「すばやく言う」ことでもある。「well...」(ええと...)と言い過ぎないことという警告。そうそう。「well-being」(福祉)というのはあんまりいい響きじゃない。大江健三郎が17日の夕刊(朝日)で「生活の良さ」と、まんまに訳してた。このほうがいい。言い過ぎる心配がなくて。