「シルバーシートを無くそう(その1)」

 シルバーシートというのがあります。電車やバスで、お年寄りや体の不自由な人のために設けられている優先席です。座席にカバーを掛けたり、座席の色を特別な色にしたりして、区別してあります。

 これは、おかしなことではないでしょうか。なぜなら、電車やバスの座席は、全て、お年寄りや体の不自由な人を優先にすべきだからです。

 むかしむかし、隣合った二つの村がありました。一つの村には、健康で頑丈な人ばかりが住んでいました。もう一つの村には、病気がちで弱々しい人ばかりが住んでいました。
 健康な人の村では、みんな元気に働いていて活気に溢れています。怠けている人は一人もいません。他の人に負けまいと一生懸命です。

 一方、病気がちな人の村は、どこかのんびりとしています。今日一日無事に過ごせれば言うことないといった雰囲気です。みんな、他の人の病気を気にかけて、お互いにいたわり合っています。

 ある年の冬、この地方が寒波に見舞われました。来る日も来る日も雪が降ります。両方の村がすっぽりと雪に覆われてしまいました。

 この村の山の向こうには町があり、行商人たちが魚や薬などを売りに、方々の村々へ出かけていました。しかし、その年は、大雪のため半年もこの二つの村へは行けませんでした。

 5月の初め頃になってやっとこの二つの村にも行けるほどに雪がとけました。この村にお得意さんが沢山いた商人は、待ちかねたようにこの村へ出かけて行きました。「両方の村人とも無事だろうか。もしかしたら、病気がちな人の村は全滅してはいないだろうか。」その商人は、祈るような気持で村へと急ぎました。

 商人は、まず、健康な人の村へ向かいました。この村の人たちは無事に冬を越したに違いないと思ったからです。ところが、その村には生きている人は一人もいませんでした。商人は驚きの余り、呆然と立ちつくしてしまいました。しばらくして商人は我にかえり思いました。「健康な人の村がこうなんだから、病気がちの人の村も全滅だな。行ってもしょうがないけど、お悔やみのつもりで行ってみるか。」そう思って、その商人が病気がちの人の村へ行ってみるとどうでしょう。その村の人は、全員無事にその冬を越していたのです。(続く)