801リレーSS

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第五章

体育教官室別室に満ちる、音楽と、ワタナベの武富士ダンス。
そのステップは大胆で繊細で、なによりも美しかった。
CMで見た時は特になんとも思わなかった群舞。しかしワタナベは一人で、スクール水着で、武富士ガールよりも遥かに存在感を放つ。楽しそうに。

ダンスを終えたワタナベを、ヤマグチは心からの拍手で迎えた。

「すごいよワタナベ! こんなダンス初めて見たよ。俺一人で見るのがもったいないくらいだった」

「いや、ヤマグチ。俺は、お前に見せたかったんだ」

はっきりと断言するワタナベ。
ヤマグチは自分の心に浮かんだ感情が、戸惑いか、嬉しさか、よくわからなかったが、そんな彼を見てワタナベは青空のように微笑んだ。

「せっかくだから、ヤマグチも一緒に踊らないか?」

「お、俺はダンスなんてできないよ」

「教えてやるよ。手取り、足取り」

その言葉はとても優しくて、差し伸べられた手はとても力強そうで、とても魅力的な提案に思えた。
最初は度肝を抜かれたけど、さっきのワタナベは本当に格好よかった。少しでも彼に近付きたい──そんな思いがヤマグチにワタナベの手を取らせた。

「背中を向けて」

振り返ったその背中に、ぴったりとくっつくワタナベ。

「うわっ」

「ほら、しっかりくっついて」

思わず一歩前進して逃れようとするヤマグチの腰に手をまわし、むしろより強い力で身体を押し付ける。
スクール水着しか着ていないワタナベの、胸筋の形までわかりそうだ。途端に恥ずかしくなって顔から火が出そうになる。
振り返って、何のつもりだよ、と叫ぼうとしたヤマグチは、しかしワタナベを顔が触れ合いそうな至近距離から見てしまい、瞬間、身体が固まった。

「大丈夫、俺に任せて。ほら、力なんて抜いてみなよ」

そんなこと言ったって、力なんて抜けるはずがない。
ワタナベは構わず、「SYNCHRONIZED LOVE」をスローテンポで口ずさみだした。まだこわばりが残るヤマグチの手を動かし、ダンスを紡いでいく。

ワタナベに操られているみたいだ。
手が、脚が、腰が、彼の思うが侭に翻弄される。
最初はぎこちなかった動きが、徐々に滑らかになっていく。
彼と触れている場所から心が伝わってきて、さっき一度見ただけの振り付けが手にとるようにわかる。
ワタナベは歌のテンポを上げた。全然ついていける。振りが速ければ速いほど、より身体が一つになっていく感覚。
こんなに気持ちがいいと思ったこと、ヤマグチは生まれて初めてだった。

そしてダンスは佳境に入る。
すでにヤマグチは、ワタナベのエスコートなしで踊っていた。そしてワタナベもまた、歌いながらなお、先ほど一人で踊った時よりも情熱的にステップする。
完全にシンクロして動く、身体にフィットしたスクール水着と裾を翻す学生服。
調和しているとは言い難い二つの姿なのに。お互いに欠けた部分を満たし合っているかのように、最初からこれが本来の姿であるとしか思えなかった。

「Forever we're in this love thing...」

最後の小節を迎える。二人は同時に歌声を上げ、同時に強く反り返り、同時に汗の雫を振り飛ばした。

決して広くはない体育教官室別室は、二人の熱気でいっぱいになっていた。
汗だくになったヤマグチ。ワタナベは、かつての自分の制服の上着を脱がせて、壊れ易いガラス細工を扱うように丁寧にヤマグチの汗を自分のハンカチで拭いながら言った。

「はは、激しかったな、ヤマグチ。すごい汗だ」

「こんなの、俺だって初めてだよ」

からかうようなワタナベの言葉に、照れ顔で答えるヤマグチ。
自分の汗が拭われていくのはとても気恥ずかしいけど、何故だかすごく、嬉しかった。

窓の外から、学生同士の交際への厳しさで恐れられている覇者りん理事長が肩のトゲを光らせて覗いていたことを、二人は知らなかった。


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