「色即是音、音即是色」とは
1. 「色即是音、音即是色」とは
1.1. 概要
音楽で用いるト音記号 (高音部記号) の譜面の、第1線から第5線の上 (上第1間) に当たる、 E4 〜 G5 の音 (中央 C を C4 とする) を 40 オクターブ上げて、 E44 〜 G45 という音域を考えます。 すると、その音域の周波数は丁度、真空中における可視光線 (波長約 360 〜 830 nm。ただし、 JIS 規格[1]による) の、ほぼ全領域に当たる周波数になります。 逆に、真空中における可視光線の周波数を 240 で割ると、ト音記号の譜面上に書けるくらいの音の周波数になります。 このように、音の周波数を 2n 倍 (n は正の整数) するか、可視光線の周波数を 2n で割ることによって、音の高さと可視光線の色を互いに対応付けることができます。
合唱や声楽において、音に対応する可視光線の色をイメージしながら演奏すると、より正確な高さの音を出すことができるようです。
また、その音に対応する色が、青ならば空や海や川の流れ、緑ならば草木や地上の自然、やや暗い赤ならば血液の流れや生命のエネルギーというように、色に関連する自然物や感情をイメージしながら曲を演奏すると、自然で表現豊かな演奏ができるようです。
作曲や編曲をする際にも、思い描くイメージの色に対応する音をフレーズのキーとなるように組み立てると、より自然な感覚の曲が書けるようです。 ベートーヴェンやフォーレ、三善晃といった、巨匠と呼ばれる人たちは、どうも自然にそのような音をうまく選んでいるように筆者は思います。
1.2. 音とは、色とは
音とは、音源の振動が波 (音波) として空気に伝わり、その空気の波に接触したヒトや動物の耳の鼓膜や骨格が共鳴して振動し、それが内耳神経を刺激して、その刺激が脳に伝達されて知覚されるものです。 音源の振動を伝える媒体としては、空気のほかに、水などの液体や、金属などの固体などがありますが、いずれにせよ、媒体となるのは、質量を持つ何らかの物質です。
それに対して、色とは、ヒトや動物の視神経が可視光線による刺激を受けて感じられるものです。 可視光線は電磁波の一種で、空間に張られた「電磁場」とよばれる「場」が、光源からのエネルギーの照射によって振動し、波として伝わるものです。 その波が目に入って、錐体細胞に伝わり、視神経を刺激して、その刺激が脳に伝達されると、その動物に色として知覚されます。
つまり、音も色も、波として伝わるという点、脳神経を刺激して動物に知覚されるものという点では同じです。 ただ、伝わる速さや周波数が全然違います。
両者の速さの違いが起こる主な原因は、波を伝える媒体に質量があるかどうかです。 可視光線の場合は、媒体は電磁場という「場」であり、それには質量がありません。そのため、可視光線が伝わる速度は極限まで速くなり、光の速さ、つまり光速で伝わります。 一方、音の場合は、媒体に質量があるために、音波の速さには限界があり、音が伝わる速さ (音速) は光よりもかなり遅くなり、周波数も光よりもかなり小さくなります。
さて、ヒトが知覚できる音の周波数は 20 Hz〜15,000 Hz ないし 20,000 Hz とされています[3]。 Hz は波が振動する速さを表す単位で、1秒間に媒体が何回振動するかという単位です。音が伝わるとき、空気はだいたい1秒間に 20 回から 20,000 回ぐらい振動しているのです。 オーケストラが楽曲を演奏しているときは、だいたい1秒間に数百回から数千回程度の振動です。
一方、可視光線の場合は、真空中での波長が約 360〜830 nm (nm はナノメートル、1/109 メートル) とされています[1]。 これを周波数に換算すると、真空中の光速が 299,792,458 m/s ですから[4]、(周波数) = (速さ(註1.2)) / (波長) の関係式より、約 360〜790 THz (T は 1012。 1 THz は 1兆 Hz) となります。実に、1秒間に数百兆回も振動しているのです。 この想像を絶する振動の速さは、媒体に質量が無いから実現できるのであって、音波にはとても真似できないでしょう。
註1.2: ここで言う「速さ」とは、「波形の山や谷が動く速さ」即ち位相速度のことです。 厳密には、位相速度は「波が伝わる速さ」即ち伝播速度 (群速度) とは違いますが、 真空中の可視光線や空気中の音波の場合は、位相速度は伝播速度と等しいと考えて差し支えありません[5]。
1.3. 用語の説明 (対応付けのための鍵)
前節で述べたように、音波と可視光線の周波数は、非常に大きくかけ離れていますが、ここで、これらを何とかして対応付ける方法を考えてみます。 対応付けの鍵となるものは、オクターブです。
ヒトは、ある高さの音を鳴らしたとき、その音の周波数を少しずつ上げて行くと、周波数が元の音の丁度 2 倍になったとき、その音を元の音と「同じような音」と感じます。同様に、周波数が 4 倍、 8 倍、 16 倍、…… と、 2n 倍 (n は整数) になる度に、「同じような音」と感じます。
さて、人は西洋音楽において、「音階」を作り、個々の高さの音に名前を付けたとき、この「同じような音」に同じ名前を付けました。 つまり、西洋の七音音階では、「Do、Re、Mi、Fa、Sol、La、Si (または Ti)」という七つの「違うような音」に名前を付け、八つ目は、一つ目と「同じような音」、つまり、周波数が 2 倍の音になるように音階を定めました。そして、八つ目の音を一つ目の音と同じ名前で呼ぶように決めたわけです。 この一つ目の音と八つ目の音との音程をオクターブと呼びます[6]。
ここで、本資料 (「色即是音、音即是色」の対応表とこの説明) で使っている、音の高さ (音高) の表記方法について述べておきます。 本資料では、音の高さは西洋音階の表記法に倣い、アルファベットと数字で表します。アルファベットは、 1 オクターブの音階における音名を表し、数字は、オクターブの高さを表します。音名はドイツ式で表記し、オクターブの高さは国際式とも呼ばれる "Scientific pitch notation" に従うことにします。
ドイツ式の音名表記は、合唱や声楽をはじめ、西洋のクラシック音楽を演奏する団体で主に用いられます[7]。 ポピュラーでよく用いられるアメリカ・イギリス式の表記では、長調の音階を「C、D、E、F、G、A、B、C」のように表記しますが、 ドイツ式では、C の半音下 (アメリカ・イギリス式では B) を H と表記し、さらにその半音下 (アメリカ・イギリス式では B♭) を B と表記します。つまり、「C、D、E、F、G、A、H、C」のように音階を表記します。そして、 H に♭が付いた音が B です。 ドイツ式を採用した理由は、本資料の対応表は主に合唱や声楽で用いることを想定したからです。
国際式とも呼ばれる、 "Scientific pitch notation" という表記法では、中央 C の音を C4 と表記します[8]。 数字はオクターブが高くなるにつれて 1 ずつ増えていきます。
以上に述べた表記法に従うと、たとえば、ト音記号 (高音部記号) の譜面では、第1線 (一番下の線) の音は E4 です。 第5線 (一番上の線) の音は F5 です。その一つ上の音 (上第1間) は G5 です。 E4 〜 G5 の音は、比較的高音の楽器や、女声の声楽でよく用いられます。 以下、特に断りが無い限り、この表記法に従って音の高さを表記します。
1.4. 色と音との対応付け
音の周波数が丁度 2 倍になると、つまり 1 オクターブ上がると、その音は元の音と同種のものと考えられます。 周波数が 4 倍、 8 倍、 16 倍、…… と、2n 倍 (n = 1、2、3、4、……) になっても同様で、元の音と同種のものと考えることができます。 ですから、何オクターブ、何十オクターブ上げても、たとえば 40 オクターブ上げて、周波数が 240 倍 (約 1 兆 1 千億倍) になったとしても、それはやはり元の音と同種のものであると考えて良いでしょう (そんな高い音が人間の耳に聞こえるのか、そもそも物理的に音が鳴らせるのかはさておき、少なくとも数学的・論理的には)。
さて、前節で紹介した E4 〜 G5 の音は、周波数が約 330 〜 790 Hz くらいです。 これを 40 オクターブ上げて、 E44 〜 G45 の音の周波数を計算すると、約 360 〜 870 THz になります。
この高さの音は、現在の最新技術でも生成できないような、とんでもない超音波です (その千分の一の、数百 GHz くらいの音波なら生成できるそうです[9])。とてもヒトの聴覚で認識できる音ではありません。 しかし、もし仮に、そんな超音波を聞くことができて、音程まで聞き分けることができるような超人が居たとしたら、その超人ならおそらく、 G5 と G45 の音は同じような音だと感じることでしょう。
一方、光 (電磁波) の世界では、先ほど計算した約 360 〜 870 THz という周波数は、ごく一般的なものです。 光の種類を表すときは、なぜか周波数はあまり使われず、真空中における波長を使うことが多いですが、 360 〜 870 THz という周波数を真空中における波長に換算すると、約 340 〜 830 nm となります。
ところで、 JIS 規格[1]によると、可視光線の波長は約 360 〜 830 nm です。この波長の範囲は、先ほどの約 340 〜 830 nm によく一致します。 つまり、光の世界では、約 360 〜 870 THz という周波数は、ほぼ可視光線に相当するということになります。 聴覚ではとても認識できなかった高周波が、視覚ではごく当たり前に認識できているのです。
図: E44 〜 G45 の範囲と可視光線の領域の比較。
このように、 E4 〜 G5 の音を 40 オクターブ上げて E44 〜 G45 としたときの周波数は、ほぼ可視光線の周波数に相当します。 逆に、可視光線を「40 オクターブ下げる」つまり周波数を 240 で割ると、ト音記号の譜面くらいの音の周波数が得られます。
このように、40オクターブずつ周波数を変えることによって、互いの周波数が一致するような音の高さと可視光線の色を計算して、表にまとめたものが、「色即是音、音即是色」と銘打った対応表です。
1.5. 対応表の概説
「色即是音、音即是色」には、上下に二種類の表があります。上の表は「色→音 の対応表」です。 この表は俗に「虹の七色」と言われる七つの色のサンプルを選び、それらの色に対応する音の周波数を算出したものです。ただし、表に書いてある音名は近似ですので、周波数がぴったりその音名のものと一致するというわけではありません。多少の誤差があります。この表は「色は即ち音である」ということを表しているので、もし差し支えなければ、この表を別名「色即是音」と呼んでください。ただし、本文書では、対応の方向をはっきりさせるため、原則として「色→音 の対応表」と呼ぶことにします。
下の表は「音→色 の対応表」です。 この表は純正律 (0#0♭、C-dur) の音階の音を基に、それに対応する可視光線の波長を算出して、その波長に近い色を示したものです。この表は「音は即ち色である」ということを表しているので、もし差し支えなければ、この表を別名「音即是色」と呼んでください。ただし、本文書では、対応の方向をはっきりさせるため、原則として「音→色 の対応表」と呼ぶことにします。
音高は E4 〜 G5 に加えて、男声のために、 1 オクターブ下の E3 〜 G4 の周波数を併記しています。 E3 〜 G4 の場合は、 41 オクターブ上げることによって、可視光線の色との対応が得られます。
ところで、通常、純正律は「Do、Re、Mi、Fa、Sol、La、Si」の七音階の音の高さを規定するものであって、臨時記号の付いた十二音階までは規定しません。しかし、本資料では、#系の音と♭系の音の高さを比較できるようにするために、あえて十二音階まで、一定の決まりに従って記しています。
具体的には、#が付いた音は、上昇系の音とみなし、その長三度下の音から正確に長三度上 (周波数比 5/4) になるように高さを決めています。♭が付いた音は、下降系の音とみなし、その長三度上の音から正確に長三度下 (周波数比 4/5) になるように高さを決めています。たとえば、 Fis は D から正確に長三度上 (周波数比 5/4)、 Es は G から正確に長三度下 (周波数比 4/5) となるように決めています。
なお、平均律では、 Cis と Des や、 Dis と Es は、異名同音と言って、それぞれ同じ高さの音ですが、純正律では、これらは必ずしも同じ高さの音ではありません。上に述べたように臨時記号 (#と♭) の付いた音の高さを決めると、これらの音の周波数は少しずつ異なるからです。このことは、純正律の重要な特徴の一つです。
さて、以上のように、音と色を対応付けてみましたが、これでは単に「対応付ける方法を決めた」というだけで、本当に音が色 (可視光線) に変わる訳でもなければ、可視光線が音波に変わる訳でもありません。 かと言って、対応付けに何も意味がないというわけでもありません。筆者は、この対応付けには大いに意味があると考えています。 その意味、あるいは効果については、第3節で述べることにします。
2. 対応表の作成方法
ここでは、「色即是音、音即是色」の対応表を作るにあたり、表に掲載している可視光線の色や波長を取得する方法について、詳しく示しておきます。
なお、本資料では、色の取得元として、 EU-HOU による "Visible Continuous Spectrum 2"[2]の連続スペクトル画像を用いました。以下、特に断りが無い限り、連続スペクトル画像と書いたときは、この画像を指すものとします。
2.1. 「色→音 の対応表」 (色即是音) の作成
「色→音 の対応表」を作成する際、サンプルの色を取得するには、連続スペクトル画像から、以下の条件を満たす画素を探し出し、その画素の座標から、色と波長を取得します。
サンプル | 条件 |
---|---|
赤 | G = 0、 B = 0 の画素のうち、 R が最大のもの。 |
橙 | R : G = 2 : 1 を満たす画素。 |
黄 | R : G = 1 : 1 を満たす画素。 |
緑 | R = 0、 B = 0 の画素のうち、G が最大のもの。 |
青 | G : B = 1 : 1 を満たす画素。 |
藍 | R = 0、 G = 0 の画素のうち、 B が最大のもの。 |
紫 | R : B = 1 : 1 を丁度満たすか、または ±1 の誤差の範囲で満たす画素のうち、 max { R, B } が最大のもの。 |
条件を満たす画素が見つからない場合は、条件に最も近い画素を 2 個ないし 3 個以上選びます。 そして、 2 個選んだ場合は、線形補間によってサンプルの色と波長を求めます。 画素を 3 個以上選んだ場合は、 RGB 値と波長のグラフを描画し、そのグラフからサンプルの色と波長を求めます。 逆に、条件を満たす画素が複数ある場合は、それらの画素から得た波長の平均値を取って、その値を採用します。
2.2. 「音→色 の対応表」 (音即是色) の作成
「音→色 の対応表」を作成する際、イメージの色を取得するには、まず、音の周波数から可視光線の波長を求めます。 波長を求める計算式は
です。
波長が得られたら、その波長に対する連続スペクトル画像の座標を探して、そこにある画素の色を取得します。 なお、その波長に丁度一致する座標が連続スペクトル画像に無い場合は、その付近に隣接する 2 個の画素の RGB 値を基に、線形補完して色を取得します。
3. 「色即是音、音即是色」の効果
3.1. 「色→音 の対応表」 (色即是音) の効果
3.1.1. 色を基にした音階の可能性
「色→音 の対応表」は、いわば単なる見本であり、音楽教育に直接役立つものではないかも知れません。 しかし、筆者は、この表にも音楽的な可能性があると考えています。 たとえば、この表を基にして、美しい音階を新しく作り出すことができるのではないかと考えました。
なぜなら、可視光線の周波数とヒトが知覚する色相の関係は、単純な比例関係や対数比例関係ではありませんが、それにも関わらず、調和のとれた美しさを持っていると思います。このことから、この関係を用いると、単純な計算だけでは得られないような、美しい音階を作り出せる可能性があるのではないかと考えています。
そのように考えながら、この表を眺めていると、次節に示すような音階が発見できました。
3.1.2. 「虹の音階 (The Rainbow Scales)」
さて、「色→音 の対応表」は、俗に言う「虹の七色」として代表的な色を七つ選び、各々に対応する周波数とその近似音を示したものです。 ここで、七つの近似音の並び方をよく見ると、少々いびつではありますが、一種の音階を形成しているようにも見えます。 そこで、ピアノなどを使って、この「色→音 の対応表」に示された近似音を順番に鳴らしてみてください。 ただし、表の一番上にある As の音を鳴らす前に、まず、表の一番下にある F の音をオクターブ下げて鳴らしてみてください。 この音が音階の主音になります。 その次に、表の一番上に戻って、 As から順番に F まで鳴らしてみてください。 たとえば、「F4、As4、A4、Ais4、His4 (C5)、Des5、Dis5、F5」のように鳴らすわけです。 すると、結構美しい音階が鳴ると思います。
筆者は、この虹の七色を基にした「F、As、A、Ais、His、Des、Dis、F」という音階を「虹の七音階 (The Rainbow Heptatonic Scale)」と名付けてみました。そして、この音階で作曲してみようと思いました。おそらく美しい曲ができるのではないかと思うのですが、残念ながら、まだ作曲には至っていません。
ここで、「虹の七音階」の構成音として、周波数の値を直接使わずに、近似音を採用した理由を述べておきます。その理由は大きく二つあります。一つは、周波数を厳密に限定するよりも、近似音を使う方が、純正律や平均律、あるいはピタゴラス音律などの旧来の音律を適用できるので、柔軟かつ容易に利用できるからです。
理由の二つ目は、対応表のサンプルの色が、元々正確な色ではなく、近似色だからです。これらの色はデジタル画像を基に取得したものです。つまり、生の連続スペクトルを直接測定して得た色ではないので、必ずしも自然な色とは言えません。 そのような色から得られた値を厳密に採用してしまうと、自然の色や音が持つ美しさを損なうおそれがありますし、誤謬を生むおそれも大きくなります。そこで、初めから近似音として、周波数にある程度の幅を許容しておけば、音楽的にも使いやすいでしょうし、近似によって、サンプルに元々含まれていた誤差が吸収され、「虹の七色」として、より望ましい色や音が出せる可能性もあると思います。
ところで、筆者は、虹は元々五色から成るとされていた[10]という話を踏まえ、七音ではなく、五音から成る音階も考えてみました。 即ち、この「虹の七音階」から、橙と青に当たる A と Des の音を取り除き、「F、As、Ais、His、Dis、F」という「虹の五音階 (The Rainbow Pentatonic Scale)」を考えました。 この「虹の五音階」を 7# (Cis-Dur、ais-Moll) の音階とみなして、階名 (移動ド) で読んでみると、興味深い結果が得られます。読んでみると、「ミ、ソ、ラ、シ、レ、ミ」という階名になります。この音程は、日本音階の陽旋法の一つに相当します。
次いで、「虹の五音階」に、青 (G : B = 1 : 1 を満たす色) に当たる Des の音を加えて、「虹の六音階 (The Rainbow Hexatonic Scale)」を考えました。 この「虹の六音階」は、各音に対応する色の RGB 値を調べると、 R、G、B がそれぞれ最大の色 (赤、緑、藍) と、 X : Y = 1 : 1 (X、Y は R、G、B のうちのいずれか) を満たす色 (黄、青、紫) が、過不足なく含まれているという特徴があります。
さらに、元の「虹の七音階」に、連続スペクトル画像の中で最も鮮烈に目立って見える、黄緑色に当たる H の音を加えて、「虹の八音階 (The Rainbow Octatonic Scale)」を考えました。 その次に、今まで選んだ八色に次いで目立って見える、藍と青の中間色に対応する D の音を加えたものを「虹の九音階 (The Rainbow Nonatonic Scale)」としました。さらに、暗赤色の始まりの色に近い Ges あるいは G の音を加えることにして、これを「虹の十音階 (The Rainbow Decatonic Scale)」としました。
ここで、八音階〜十音階で加えたそれぞれの色について、 RGB値を基に、少し解析してみます。「虹の八音階」で加えた H に対応する色 (黄緑色) は、 RGB 値が R : G = 1 : 2 の比率に近い色です。また、「虹の九音階」で加えた D に対応する色 (藍と青の中間色) は、 RGB 値が G : B = 1 : 2 に近い色です。それから、「虹の十音階」で加えた Ges あるいは G に対応する色は、 2.1 節で挙げた「赤」のサンプルに比べて、 R の値が約 1/2 あるいは約 2/3 になっています。
以上に述べた「虹の五音階」から「虹の十音階」までの音階をまとめて「虹の音階 (The Rainbow Scales)」と呼ぶことにします。 これらの音階は、いずれもそれぞれに美しい音色を奏でることができるようです。以下に、「虹の音階」の構成音と特徴を表にまとめました。
音階名 | 音階の構成音 | 特徴 |
---|---|---|
虹の五音階 (The Rainbow Pentatonic Scale) | F、As、Ais、His、Dis、F | 音程が日本音階の陽旋法の一つに一致。 |
虹の六音階 (The Rainbow Hexatonic Scale) | F、As、Ais、His、Des、Dis、F | R、G、B がそれぞれ最大の色 (赤、緑、藍) と、 X : Y = 1 : 1 を満たす色 (黄、青、紫) に対応する音を過不足なく含む。 |
虹の七音階 (The Rainbow Heptatonic Scale) | F、As、A、Ais、His、Des、Dis、F | 「虹の七色」に対応。 |
虹の八音階 (The Rainbow Octatonic Scale) | F、As、A、Ais、H、His、Des、Dis、F | 連続スペクトル画像の中で最も目立つ、黄緑色に近い色 (R : G = 1 : 2 に近い色) に対応する音 (H) を含む。 |
虹の九音階 (The Rainbow Nonatonic Scale) | F、As、A、Ais、H、His、Des、D、Dis、F | 「虹の七色」と黄緑色に次いで目立つ、藍と青の中間色 (G : B = 1 : 2 に近い色) に対応する音 (D) を含む。 |
虹の十音階 (The Rainbow Decatonic Scale) | F、Ges or G、As、A、Ais、H、His、Des、D、Dis、F | 暗赤色の始まりに近い色 (「赤」のサンプルに対して R の値が 1/2 〜 2/3 程度の色) に対応する音 (Ges あるいは G) を含む。 |
なお、これらの音階の構成音は全て近似音なので、各音の周波数には、ある程度の幅を持たせることができます。 従って、各音の周波数は適宜少しずつ変更したり、好みに合わせてチューニングしたりできます。このことは、各音階は、純正律にも平均律にも適用できることを意味します。
3.2. 「音→色 の対応表」 (音即是色) の効果
3.2.1. 「音即是色」という言葉の意味するところ
「音→色 の対応表」は E4 〜 G5 あるいはその 1 オクターブ下の E3 〜 G4 の音と可視光線の色の対応を示したものです。 現在の所、筆者は「色即是音、音即是色」の最大の利点は、この「音→色 の対応表」の活用にあると思っています。
この表において、「二つの音に対応する色が異なる」という命題は、そのまま、「二つの音に固有の絶対的なイメージはその色の違いの分だけ異なる」ということを意味していると筆者は考えています(註3.2)。もっと言えば、それぞれの色は、それに対応する音が持つ固有のイメージを視覚的に、かつ端的に示していると考えています。こが即ち、筆者が「音→色 の対応表」を「音即是色」という言葉で表した所以です。
註3.2: 絶対的な音高に固有のイメージがあるということについては、懐疑的な人もいると思います。 たとえば、「音の高さが持つイメージは、常に音階に対する相対的なものである。 たとえば、純正律の C-Dur と F-Dur を比べると、それらは同じく長調だから、共に同じイメージを持つ音階である。 そして、 C-Dur の C の音と F-Dur の F の音は、共に長音階の主音として、同じイメージを持つだろう。しかし、C-Dur の F の音と F-Dur の F の音が、共にある種の同じイメージを持つとは考えにくい」 と思っている人もいるでしょう。筆者も昔はそう思っていました。
しかし、よく考えてみると、「あらゆる物体には固有振動数がある[11]」という物理学的前提に立てば、当然、ヒトにも固有振動数があります (振動数には個人差があるかも知れません)。 そこで、たとえば、あなたは自分の固有振動数に対して、少なくとも無意識的には、ある固有の絶対的なイメージをおそらく持っていると思います。 そして、ある高さの音 (たとえば F の音) の周波数は、あなたの固有振動数に対して、ある一定の比率を持っていますから、その F の周波数とあなたの固有振動数との比率に由来するイメージは、おそらくあなたにとって、絶対的な固有のものになるのではないでしょうか。 絶対的な音高のイメージとは、おそらくその辺りを起源とするものではないかと筆者は思います。
あるいは、ヒトの体は60〜70%が水でできていると言われますが、もしかすると、ヒトの脳は水の固有振動数に対して、何か共通するイメージを感じるのかも知れません。
絶対的な音高のイメージに懐疑的だった方は、そのような考え方を前提として、本論を読んでみてはいかがでしょうか。
3.2.2. 視覚的イメージによる#系と♭系の区別
「音→色 の対応表」では、音律として純正律を用いています。そのため、臨時記号の#が付いた音と、その一音上に♭が付いた音 (平均律における異名同音) は同じ音ではありません。そして、それら二つの音に対応する色も、明らかに互いに異なっています。
これを利用すると、たとえば、音楽教育の場で、純正律では、「異名同音」は必ずしも同じ音にならないということを説明するとき、それぞれの色の違いを示すことによって、視覚的に訴えることができます。
また、色の違いは音の高さに固有のイメージの違いを直接示していると考えると、#の音と♭の音に対応する色が異なるということは、それら二つの音に固有のイメージも、互いに異なると言えます。
このことは、音楽の演奏において、#系の音と♭系の音を対照的なイメージで演奏するために利用できると思います。つまり、演奏する際に、#系の音と♭系の音に対する色の違いをイメージすると、そのイメージの違いが実際の演奏にも現れ、#系 (上昇系) の音と♭系 (下降系) の音をイメージを変えて対照的に演奏するための一助になるでしょう。
3.2.3. 正確な音高のための指標
これは、現時点では、筆者の経験に基づく仮説の段階ですが、合唱や声楽の練習の際、「音→色 の対応表」に示されている色をイメージしながら音を出すと、純正律の正確な高さの音が出しやすいようです。筆者の経験上、そうやって声を出すと、よくユニゾンが揃い、綺麗な音階を演奏できる傾向にあります。また、キーとなる音に対応する色をよくイメージして曲を演奏すると、綺麗な演奏ができるようです。
合唱や声楽の練習で、つい音が上ずったり、下がったりすることがあります。あるいは、長年、ピアノやオーケストラに合わせて歌っている人の中には、平均律に慣れてしまい、純正律の調和のとれた響きの音が、出しづらくなっている人もいます。そういった人たちは、基本姿勢がよくなかったり、長年の慣れを捨てきれなかったりするわけです。このとき、「今、音が低い」「高い」と言葉で指示しても、なかなかイメージがつかめず、うまくいかないことがあります。 体幹を整えたり、長年の癖を排したりするのは、なかなか大変で、時間がかかるものですが、 この「音→色 の対応表」のように、音高を精密に色の違いによって表しておくと、一目見ただけでも、何となく音のイメージがつかみやすくなるので、長年の癖を排する時間を少しでも短縮できるのではないかと思います。
このように、色のイメージは、正確な音高をつかむための手助けになると思います。 ただし、 C-dur 以外では、周波数が少し変わることがあるので、イメージする色も少し変える必要があるかも知れません。ご注意ください。
3.2.4. 曲のイメージ想起の補助
これも仮説の段階ですが、合唱や声楽の練習をする際、譜面を一通り読み、音取りをして、これから曲のイメージを作り出して行こうとするとき、「音→色 の対応表」を使って、曲やフレーズのキーとなる音に対応する色をイメージしたり、その色から連想される自然物の情景や感情などをイメージしたりすると、曲のイメージやフレーズのイメージを想起しやすくなるようです。
たとえば、青い色に対応する D の音がキーとなるフレーズでは、青い海、あるいは真昼の空などをイメージし、暗赤色に対応する G の音がキーとなるフレーズでは、血管を流れる血液や、それによって生じる命のエネルギーをイメージするといった方法です。As の場合は、G よりも鮮明な赤色に対応するので、真っ赤な夕焼けや、燃える炎のようなイメージをすると良いでしょう。
さらに、装飾音に対応する色のイメージを隠し味的に加えてみたり、和音に対応する色のイメージを基のイメージに重ねてみたりするのも良いだろうと思います。
具体例として、筆者の感覚的な話になりますが、三善晃の混声合唱曲『木とともに人とともに』の例を挙げてみます。 この曲の終わりから 3 小節目 4 拍めに、 Tenor は F と C、 Bass は As と D のアクセントが付いた音があります。 ここで、 Tenor の場合、F では紫色の高貴な感じをイメージし、 C では緑色の木々をイメージしながら歌うと、とても気持ち良く歌えます。 Bass の場合、 As では、夕焼けのような真っ赤に染められた空間をイメージして歌うと、力強いエネルギーに満ちた声になり、D では、全ての命を支える水のイメージを想像しながら歌うと、気持ちよく歌えるようです。
ただし、このような方法がうまく適用できるのは、その曲が十分に美しく、かつ、原調で書かれている場合です。たとえば、有名なクラシックの曲でも、調のイメージも何も考えず、適当に移調して書いたような譜面では、うまく適用できない場合があるだろうと思います。
3.2.5. 作曲、編曲における効果
作曲や編曲をする際、最も良いのは、ごく自然に音が生み出されていくことだろうと思いますが、 もし、音を選ぶのに迷ったときは、色のイメージを基に音を選ぶのは、悪くない方法の一つだと思います。
その方法は、表現したい事物や情景、感情などを象徴する色を思い浮かべ、その色に対応する音をフレーズのキーとして選ぶという方法です。 たとえば、透き通った空をイメージしたいなら、青に対応する D 近辺の音を選び、地面をイメージしたいなら、黄色や橙色に対応する B 近辺の音を選ぶという方法です。 つまり、合唱や声楽の練習をする場合の逆の手順です。
この方法は、和音を構成するときにも適用可能です。その場合は、各パートごとに、それぞれ表現させたい事物や情景、感情を割り当てて、それらを象徴する色に対応する音を選んで、和音を組み立てます。
4. 使用上の注意
4.1. 対応表の色についての注意
「色即是音、音即是色」の対応表の色は、あくまで単なる目安であって、絶対的なものではありません。これらの色を全面的に信頼して、固定させるべきではありません。少なくとも、多少の誤差があるものと思ってご使用ください。
その理由は大きく三つあります。 一つは、色の元データがデジタル画像であり、生の可視光線スペクトルではないからです。そのため、実際の生のスペクトルの色に対して、多少の誤差があります。
理由の二つ目は、色の感じ方には個人差があるからです。細かい色の違いに敏感な人もいますし、色に無頓着な人もいます。あなたと別の誰か (それは筆者かも) が同じ波長の色を見たとして、二人が完全に同じイメージを感じるとは限らないだろうと思います。
理由の三つ目は、音律や調が変わると、各音の周波数が少し変わり、それに伴って、色も少し変わるからです。
たとえば、ドイツ式表記の B (国際式表記ではB♭) の音を例にとります。本資料で使っている音律は A = 440 Hz の 0#0♭ (C-dur) の純正律ですが、本資料では、B4 の周波数は 475.2 Hz としています。この周波数は、B を D の長三度下と考えて算出しました。それに対して、 A = 440 Hz の 1♭ (F-dur) の純正律の場合、 B4 の周波数は 469+1/3 Hz となります。
このように、純正律では、調が変わると、各音の周波数が少し変わるので、対応する色も少し変わります。本資料では、 B の音に対応する色は波長 573.78 nm の色ですが、 1♭ (F-dur) の場合、波長 580.95 nm の色になります。視覚的な色のイメージも、下の図のように少し変わります。 このように、音名が同じでも、音高や対応する色が多少変わることがあるので、ご注意ください。
図: C-dur の B に対応する色のイメージ (左側) と F-dur の B に対応する色のイメージ (右側)。
音名はドイツ式表記。なお、C-dur の B は D の長三度下とする。
4.2. 「虹の音階」についての注意
3.1節で、「虹の音階」を紹介しましたが、読者の方は、音階を十一音階以上にも拡張できるだろうと考えるかも知れません。 しかし、筆者は、それは困難な作業だろうと思います。それを行うためには、少なくとも、デジタル画像ではない、生の可視光線の連続スペクトルを取得して、それを自然科学的根拠に基づいた方法で、精密に解析する必要があるだろうと考えます。
なぜなら、これ以上音階を細かく設定しようとすると、半音以下の音程を考える必要が生じ、音の周波数の厳密性が求められてくるからです。 ところが、デジタル画像を使って色を細かく解析しようとすると、画像の色と実際のスペクトルとの誤差の影響が強く現れ、困ったことになります。 つまり、デジタル画像は、実際のスペクトルに対して、元々ある程度の誤差を含むものですから、解析を細かくすればするほど、信頼性が失われ、 その結果、自然で美しい、良く響き合う音階を得ることが困難になってくるようなのです。
実際、筆者は、連続スペクトル画像をより細かく解析し、音階を拡張しようと試みましたが、「虹の十音階」以上は、音楽に使えそうな、響きの良い音階を得ることはできませんでした。その「虹の十音階」も、第2音が二つあって、少し迷いと無理が出てきているのがお分かりいただけるかと思います。
5. 考察
5.1. 音域 E4 〜 G5 は適切か
「音→色 の対応表」では、音域として E4 〜 G5 の範囲を取っています。ところが、この音域の範囲は、1 オクターブよりも広いので、一つの音に二つの色が対応している部分があります。このことは、対応表の利用者の混乱を招くおそれがあると思います。そこで、この音域の範囲が果たして、音と色との対応を考える上で適切なものなのかどうか、ここで考えてみたいと思います。
さて、「音→色 の対応表」を改めてよく見ると、一つの音に二つの色が対応しているのは、E、Fes、Eis、F、Fis、Ges、G の 7 音です。これらの音に対応する色を二つずつ見比べると、いずれも、一方が比較的明るく、他方は暗くなっています。色が暗いのは、波長が赤外線または紫外線との境界に近いからです。
ここで、暗い方の色は思い切って捨ててしまい、明るい方の色を採用することを考えてみます。この場合、Fis、Ges、G の 3 音は低音側の赤色を採用し、 E、Fes、Eis、F の 4 音は高音側の紫色を採用することになります。
このようにすると、可視光線の領域に対応する音域は、 E4 〜 G5 ではなく、 Fis4 〜 F5 となります。こうすると、音と色が必ず 1 対 1 で対応するので、利用者の混乱を招くおそれが軽減されます。実際、筆者は、上に挙げた 7 つの音については、原則として、明るい方の色をイメージするようにしています。
しかし、音域を Fis4 〜 F5 に設定すると、対応する可視光線の波長領域は、約 390 〜 730 nm となり、JIS[1]による可視光線の波長領域 (360 〜 830 nm) よりも少し狭くなります。そのため、音では全ての色を表現することはできないということになり、表現したい色を音に対応付けることができなくなるケースが考えられます。また、採用する音律や調によって、対応する色が変化することを考えると、特に F や Fis の音に対応する二つの色は、明暗が逆転する可能性も考えられます。これらのことを考慮して、差しあたっては、本資料に示した音域を採用しておきたいと思います。
5.2. 虹色の解析方法
4.2節で述べた通り、「虹の音階」を十一音階以上に拡張するには、十分に科学的正当性がある、精密な連続スペクトルの解析方法を考案することが不可欠でしょう。 筆者は、自然で美しい音階を得るためには、色の解析方法として、人が便宜的に定めたような、科学的な根拠に乏しい規格や基準に依存する方法は用いるべきではないと考えており、自然科学の理論あるいはヒトの視覚系に可能な限り沿った方法を使うべきだと考えています。
たとえば、RGB 表色系は、精密な解析には使うべきではないでしょう。RGB表色系では、原色の波長が水銀のスペクトルから選ばれているので、生物学的にはあまり自然なものではないと思いますし、ヒトが知覚できる全ての色を合成できないからです。
国際標準的な表色系である XYZ 表色系[12]を使う場合にも注意が必要です。特に、可視光線の波長領域に気を付ける必要があります。XY 色度図では、700 nm までしか表示されていない場合が多いですが、本目的のための解析には、700 nm より長い波長も必要です。JIS[13] の XYZ 表色系で 780 nm までの波長を考慮しているように、広い範囲の波長領域を解析する必要があります。
また、ヒトの錐体細胞の吸収曲線を信頼性の高い形で標準化できれば、それを用いることによって、自然で説得力のある解析結果が得られるのではないかと筆者は考えています。
5.3. 「虹の五音階」と日本音階
「虹の五音階」の音程が、日本音階の一つに一致することは、偶然なのかも知れませんが、あるいは、何らかの科学的な理由付けができるかも知れません。
科学的に理由付けが可能かどうかについては、今のところ、まだ何も結論は得られていませんが、ヒトの視覚系の仕組みと聴覚系の仕組みを詳しく検証すれば、何らかの理由付けが得られる可能性があるのではないかと筆者は考えています。
5.4. 「音→色 の対応表」はなぜ効果があるのか
筆者の経験上、「音→色 の対応表」には、合唱や声楽において、音楽の質的向上が期待できる効果があるようです。
筆者の所属するアマチュア合唱団では、対応する色をイメージしながら声を出すと、イメージしない場合に比べて、明らかに綺麗な音程で演奏できています。
また、筆者は、絶対的な音の高さのイメージは、それに対応する色のイメージと無関係ではないと考えています。それは、筆者が歌を練習しているとき、たとえば D の音をキーとするフレーズでは、青い海のようなイメージを感じることが多く、G の音をキーとするフレーズでは、血液の流れから生み出される生命のエネルギーのようなイメージを感じることが多いように思うからです。しかも、それは特定の一つの曲ではなく、複数の異なる曲で、共通して感じられるイメージです。
あるいは、ヒトの産声の最初の音を聞いた人は、何故かオレンジ色を感じることが多く、また、絶対音感を持っている人が、産声を 440 Hz 付近の音として認識することが多いという話が昔からあります。 ただし、現在のところ、これは迷信とされているようです。 しかし、だからと言って、この話を何の意味も無いことだとして切り捨ててしまうのは、何か重要なことを無視してしまうことに繋がるような気がします。 偶然の一致かも知れませんが、「音→色 の対応表」を参照すると、440 Hz 付近の音はオレンジ色に対応しています。
筆者は、このような効果や現象は、ヒトの脳神経の仕組みに由来するものではないかと考えています。
従来から知られているヒトの知覚現象で、「共感覚」というものがあります[14]。これは、ある刺激に対して、通常の感覚だけでなく、異なる種類の感覚をも生じる現象です。具体的には、音を聞いて色を感じたり、文字を見て色を感じたり、臭いから色を感じるというような現象です。
筆者は「音→色 の対応表」による効果は、共感覚と同じような仕組みによるものではないかと考えています。たとえば、一つの可能性として、聴覚で約 440 Hz の A の音による刺激を受けたときと、視覚でその音に対応するオレンジ色の刺激を受けたときは、互いの周波数の関連性から、脳の側頭連合野や前頭連合野などにおいて、互いによく似た神経の刺激パターンを生じるのではないか、その結果、脳がそれらの刺激を互いに関連するものとして認識するのでないか、というような仮説が成り立つと思います。なお、脳の側頭連合野は視覚や聴覚に関わると言われ、前頭連合野は複雑な思考や判断などに関わると言われています[15]。
「音→色 の対応表」の効果は、現時点では、筆者とその周辺での経験則的な仮説の段階です。しかし、もし、この効果が科学的に証明できれば、共感覚という現象に対する医学的説明や、それを応用した医療にもつながる可能性があるのではないかと筆者は考えています。
6. まとめ
この文書では、まず、音と光について概説し、その二つを関連付けた、「色即是音、音即是色」の対応表を紹介しました。そして、表の作成方法、使用方法、使用する上での注意点を示しました。
そして、「色即是音、音即是色」の対応表が、音楽分野、とりわけ合唱や声楽において有用である可能性を示しました。 また、対応表を使って作成した「虹の音階」を紹介しました。
さて、ここで改めて強調しておきますが、「色即是音、音即是色」の対応表は、特定の哲学的思想に基づくものではなく、純粋に科学的事実に基づいて作られたものです。 ですから、筆者は、この対応表を基にした研究は、変に捻じ曲げられない限り、科学的研究の成果として十分に値するものだと思っています。 そういった思いから、筆者はたとえば共感覚のような、従来、再現性、検証性が弱いとされてきたであろう領域において、この資料を切っ掛けとした科学的研究が、誰かの手によってなされ、それが脳神経科学や精神医療などの発展に寄与できればと夢見ています。
7. 今後の課題
今後の課題を五つほど挙げておきます。
第一に、「音→色 の対応表」の効果をさらに検証することです。この対応表を使っているのは、筆者がこれを書いている時点では、筆者の周辺のいくつかの合唱団くらいです。この表の効果が広く一般に認められるものかどうかは、多くの方に使っていただかないと分かりません。 音楽活動をしている方は、一度この表を使って、効果を試してみてください。 そして、できたら感想などを頂けると嬉しく思います。よろしくお願いします。
第二に、「虹の音階」を使った曲を作ってみたいと思っています。 ただ、それはいつのことになるか、そもそも筆者の技量で良いものが作れるのかどうか、全く分かりません。作曲や編曲などをされている方がいらっしゃいましたら、これらの音階をご利用いただければ幸いです。
また、「虹の音階」を拡張することも今後の課題です。それには、本文中で述べた通り、生の可視光線の連続スペクトルを取得し、科学的に正当な方法で精密に解析する必要があるでしょう。
それから、本資料の「音→色 の対応表」は、0#0♭ (C-dur) の純正律にしか対応していませんが、他の調にも対応した資料を提供できればと思います。ただ、その場合、紙面の資料ではなかなか使いにくいと思いますから、たとえば、調を入力すると、その調に応じた音階と色が自動的に表示されるようなソフトウェアを作成することになるでしょう。
そして、5.4節で述べた、「音→色 の対応表」の効果を科学的に証明することは、重要な課題だと思います。しかしながら、これは筆者の手に余るもののようです。もし、この文書を読んで、興味を持った医学関係や脳神経科学関係の研究をされている方がいらっしゃったら、研究テーマの片隅に加えていただくと、筆者としては非常に嬉しいところです。
8. 謝辞
「色即是音、音即是色」の対応表の利用を認めていただき、さらに、この文書を書くことを勧めてくださった、鞭眞子(みちこ)先生に深く感謝いたします。また、この対応表をご利用いただいている、合唱団 宙の木ならびに第一薬科大学コールファーマシーをはじめ、各合唱団の団員の皆様に、大いに感謝いたします。それから、筆者の音楽経験、合唱経験の基礎を育んでくださった、故・藤井凡大先生をはじめ、九州大学コールアカデミーとそのOBの皆様に深く感謝いたします。
また、筆者の生活を支えていただいた、両親をはじめ、家族の皆様に深く感謝いたします。
参考文献
- [1]日本工業規格票 JIS Z 8120:2001「光学用語」 (Glossary of optical terms), http://kikakurui.com/z8/Z8120-2001-01.html (2013年4月26日アクセス)
- [2]Maite Lacarra and Ariel Majcher "Observations of various spectra with a home-made spectroscope", EU-HOU, http://www.euhou.net/index.php/exercises-mainmenu-13/classroom-experiments-and-activities-mainmenu-186/179-observations-of-various-spectra-with-a-home-made-spectroscope (2013年4月27日アクセス)
- [3]ウィキペディア「聴覚」, http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%81%B4%E8%A6%9A (2013年4月29日アクセス)
- [4](独) 計量標準総合センター「国際単位系(SI)の要約 日本語版」, https://www.nmij.jp/library/units/si/R8/SI8JC.pdf (2013年4月29日アクセス)
- [5]田口俊弘「ワンポイント講座 位相速度と群速度」, 摂南大学, http://www.pp.teen.setsunan.ac.jp/lecture/lightspeed.html (2013年4月29日アクセス)
- [6]ウィキペディア「オクターヴ」, https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%82%AF%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%B4 (2013年4月29日アクセス)
- [7]Takayuki Nishioka「ドイツ式音名」, 「作曲・編曲講座 - Advance -」, http://tnishioka.web.fc2.com/lesson/advance/1000.html (2013年5月12日アクセス)
- [8]Wikipedia "Scientific pitch notation", http://en.wikipedia.org/wiki/Scientific_pitch_notation (2013年4月29日アクセス)
- [9]舎川知広、荻博次、中村暢伴ら「ブリルアン振動を用いた酸化物薄膜の弾性定数測定と組織評価」, 日本機械学会論文集A編 75巻 749号, pp.72-78 (2009), http://ir.library.osaka-u.ac.jp/dspace/handle/11094/2917 (2013年4月29日アクセス)
- [10]iro_color「虹の配色」, 色カラー | 色の組み合わせ・配色デザイン, http://iro-color.com/episode/rainbow.html (2013年4月29日アクセス)
- [11]ウィキペディア「固有振動」, http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BA%E6%9C%89%E6%8C%AF%E5%8B%95 (2013年5月1日アクセス)
- [12]藤原隆男「色空間の変換(1) − XYZ 色空間」, 京都市立芸術大学, http://w3.kcua.ac.jp/~fujiwara/infosci/colorspace/colorspace1.html (2013年5月1日アクセス)
- [13]日本工業規格票 JIS Z 8701:1999「色の表示方法 - XYZ表色系及びX10Y10Z10表色系」, http://kikakurui.com/z8/Z8701-1999-01.html (2013年5月10日アクセス)
- [14]ウィキペディア「共感覚」, http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%B1%E6%84%9F%E8%A6%9A (2013年5月11日アクセス)
- [15]三上章允「大脳皮質連合野の話」, 中部学院大学, http://web2.chubu-gu.ac.jp/web_labo/mikami/brain/40/index-40.html (2013年9月1日アクセス)
Q&A
A.いいえ。この対応表は、客観的に検証可能な、科学的事実に基づくものです。
なお、対応表のネーミングが少し宗教っぽいのは、ちょっと格好つけたかっただけです。
もちろん、この表を基にした議論や考察には、個人的な考えや仮説などが入ってきます。この文書では、考察や仮説の部分は、それが分かるように、意識的に、断定しないような表現で書いているつもりです。もし、表現におかしいところや疑問点などがありましたら、ご指摘いただけると幸いです。
A.平均律ではそうですが、純正律では、ド#とレ♭は一般に同じ音ではありません。
純正律では、最も美しいとされる和音の響きを狙って、基準となる音の周波数の 3/2 あるいは 5/4 という比率を使って音高 (周波数) が決められます。その結果、異名同音とされる音や、同一の音名の音であっても、調や和音の構成によって、音の周波数が微妙に変わることがあります。
たとえば、シ♭の場合、レを基準に、その長三度下を意図した場合と、ファを基準に、その完全五度下を意図した場合では、周波数が異なります (ラを 440 Hz とすると、前者は 475.2 Hz、後者は 469 + 1/3 Hz)。
純正律の音高をあらゆる場合を想定して求めるのは、かなり煩雑です。 本資料では、O#0♭ (C-dur、ハ長調) の場合と、それに加えて長三度の和音のための臨時記号 (#と♭) を想定して、周波数を求めています。
A.E や F の音のように、一つの音に二つの色が対応している場合は、曲の流れやハーモニーなどを考慮しつつ、どちらでも好きな色をイメージして良いと思います。 あるいは、二つの色を見比べて、より明るい方の色を採用するというのは、一つの良い方法だと思います。 詳しくは、5.1節を参照してください。
ちなみに、筆者は通常、 F の音を出すときは紫色、 G の音を出すときはやや暗い赤色をイメージするように心がけています。
A.最大の理由は、純正律のほうが、平均律よりも和音の響きが純粋で美しく、綺麗にハモるからです。声楽では、器楽よりも容易に細かい音高の変化がつけられるので、現在でも純正律は現役です。というか、むしろ平均律よりも積極的に用いられているようです。
A.上側の「色→音 の対応表」では、有効数字は5桁です。 下側の「音→色 の対応表」では、周波数は無限精度、波長は5桁です。
「色→音 の対応表」の周波数の値は、元データの可視光線の波長が測定値なので、有効桁数が存在します。
「音→色 の対応表」の周波数の値は、測定値ではなく算出値です。しかも、ある桁数で割り切れるので、無限精度で表示可能です。0#0♭ (C-Dur) の純正律の場合、A4 を 440 Hz の整数値と定めると、表に示した音の周波数は、どれもある桁数で割り切れます。 たとえば、C45 の周波数は正確に 580,542,139,465,728 Hz の整数値になります。
可視光線の波長の値は、光速の有効桁数が9桁なので、少なくとも有効数字8桁までは算出可能です。 しかし、一般的なパソコンのディスプレイやプリンタでは、そこまで精密に色を再現することはできませんので、 精度よりも数値の読みやすさを優先して、5桁で四捨五入しました。
A.「音→色 の対応表」の色は、連続スペクトル画像の RGB 値を元に、補間して求めたものです。 そのため、連続スペクトル画像の中には、表と全く同じ色は必ずしも含まれていない場合があります。
A.全く無関係とは思っていません。だから、このような名前を付けました。
たとえば、「色即是音」という言葉を解釈してみます。「色」は直接的に目に見え、「音」は目に見えないものです。また、「色」は目の前に何か物質があって初めて感じられるものですが、「音」は空気さえあれば、目の前に何もなくても、風の音や誰かの声などが聞こえるように、どこでも感じられる遍在的なものです (「空気さえあれば」という点がミソですが)。
これらのことから、地球上においては、色は物質的なものであり、音は空的なものと言えるでしょう。にも関わらず、色と音は互いに対応しあっていますから、異なるものではありません (いわば「色不異『音』」)。むしろ、感覚的な意味では、同じものだと考えることさえできるのです (いわば「色即是『音』」)。
般若心経に出てくる「色即是空」という言葉の解釈はいろいろあると思いますが、上に述べたような考えは「色即是空」の哲学に通じるところがあるのではないでしょうか。単なる言葉の遊びと言ってしまえば、そうなのかも知れませんが、筆者は少なくとも、二つの言葉・概念は互いに全く無関係という訳ではないだろうと思いましたので、このような名前を付けて資料を公開しています。
A.主音を F としたのは、「虹の五音階」の音程が日本音階と一致することを強調したかったという理由が一応ありますが (日本音階は、ミを主音とした移動ドの音階として捉えると、理解しやすいです)、つまりは、筆者の好みの問題です。
従来の音階に、長調や単調、ドリア調やフリギア調などがあるのと同じように、他の音を主音にしても構わないだろうと思います。 たとえば、虹だから赤色から始めたいと思えば、 As を主音にしてもいいでしょう。あるいは、黄色の Ais を主音にしても、良い感じの音階になるようです。
ただし、音階を使って和音を作ろうとするならば、その音の完全五度上 (属音) が音階の中に含まれている音を主音とした方が良いだろうとは思います (世の中には、エニグマティックスケールやオルタードスケールのように、主音の完全五度上を含まない音階もありますが)。
A.難しい問題ですが、もしかすると、視覚以外の別の感覚に置き換えるなどして適用できるかも知れません。たとえば、筆者の所属する合唱団の指揮の先生は、目の見えない方には、視覚を触覚に置き換え、「F の気品ある紫色はビロードのような手触り」というように説明されていました。
A.白っぽい色は、いくつかの色が混ざってできるものなので、単音に対応する色には、そのような色はありません。 そのような色は、和音に当たるものだろうと筆者は思っています。
ただし、音楽を演奏するときは、必ず倍音が鳴りますから、自分が出した音のイメージと倍音のイメージが混ざり合って、結果的に白っぽい色のイメージができることはあるのではないかと思います。
また、色のイメージは、必ず一つに強要されるというものではありませんので、あなたが曲を演奏したときに、ピンク色や白っぽい色のイメージがふさわしいと感じたのであれば、そのような色をイメージしても、何ら差支えはありません。
A.いいえ。必ず表の通りに色をイメージしろと言っている訳ではありません。
これは大事なことですが、「音 → 色の対応表」はあなたのイメージを限定させたり、固定させたりするものではありません。 音楽を演奏するとき、色をイメージすることで、音高が正確になったり、音楽の表情が豊かになったりするようですが、 この表はあくまで、色をイメージするための補助に過ぎません。
ですから、あなたが、この表よりも、もっと自分に合った色のイメージを持っているのであれば、必ずしもこの表に従う必要はありません。 たとえば、F の音を出しているときに、もし、紫色よりも水色のイメージが自分の心に浮かんだならば、それも良いでしょうし、黄色のイメージが上から降って来たように感じたならば、それも良いでしょう。
ただ、筆者が色のイメージを伝える場合は、まずはこの表を使います。なぜなら、この表は使い易いですし、ある程度、本物に近いイメージを伝えられると思っているからです。 たとえば、C の音を ff で伸ばすときには「森が緑の自然に満ち溢れているように」と言ったりしますし、As の音を ff で伸ばすときには「夕焼けよりもさらに真っ赤な色に満ちた世界に飛び込むように」と言ったりします。